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連載エッセー「本の楽園」 第29回 生きるための詩

作家
村上 政彦

 僕は9歳のときに父を喪った。その後は母と祖母に育てられた。
 母は、酒場で「ママさん」と呼ばれる勤めをしていた。だいたい昼頃まで寝ていて、夕刻に近くの銭湯へ行き、きれいに化粧をして着物を着る。三面鏡の前で、ぽんと帯を叩いて出かけて行く。帰るのは深夜である。

 家族というのは不思議なもので、母と祖母は特に話し合ったわけでもないだろうが、いつか母が「父」になり、祖母が「母」になった。 続きを読む

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連載エッセー「本の楽園」 第28回 文学全集で文学と交際する

作家
村上 政彦

 大学で文芸創作のクラスを担当していて、学生に小説の書き方を教えている。いい小説を書くには、まず、すぐれた小説を読むことだ、というと、すぐれた小説とはどういうものですか? と質問を受ける。
 そのときの僕の答えは単純である。文学全集を読みなさい。

 世界のすぐれた小説の水準を知りたければ、世界文学全集を読めばいい。日本のすぐれた小説の水準を知りたければ、日本文学全集を読めばいい。 続きを読む

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連載エッセー「本の楽園」 第8回 短篇作家としてのトルーマン・カポーティ

作家
村上政彦

 トルーマン・カポーティという作家には、いくつかの貌がある。たとえば、映画の『ティファニーで朝食を』の原作者としての貌。また、ノンフィクション・ノベル『冷血』の作者としての貌。そして、短篇作家としての貌がある。 続きを読む