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池田SGI会長70年の軌跡(中)――仏法の叡智を人類共有の宝に

ライター
青山樹人

哲学部長の感嘆

 1994年5月、池田SGI会長はモスクワ大学で2度目の講演をした。
 最初の講演は1975年。まだ東西冷戦の渦中で、とりわけ米中と日中の国交正常化によって、ソ連が国際社会から孤立していた時期だった。
 2度目の時にはソ連が崩壊し、ロシアに変わって日の浅い混沌の時期だった。
 この講演で、会長は「すべては人間に始まり、人間に帰着する」ことを語り、大乗仏教の精髄の法理を「規範性」「普遍性」「内発性」の3つに即して展開し、トルストイの文学と交錯させながら論じた。
 講評に立ったモスクワ大学哲学部のバーニン学部長(当時)は、感慨を込めてこう述べた。

 博士は「内発性をおろそかにしたがゆえに、宗教史には、独善や傲慢が横行し、『宗教のため』に人間が傷つけあうという転倒が繰り返されてきた」と述べておられます。
 博士が呼びかけておられる「人間主義的世界観の復興」は、現実のなかで応用・展開し得るものであり、民族、文化、宗教、文明の違いを超えて相互理解を打ち立てる道を開くものです。(『21世紀文明と大乗仏教』より)

 そのわずか2年余り前まで、マルクス・レーニン主義を掲げた社会主義・共産主義陣営の盟主だった国の哲学界の重鎮が、池田会長の講演を聴いたあと、「人間の内発性」「人間主義的世界観の復興」への深い共鳴を熱く語っているのである。

恩師の願業をすべて実現して

 池田会長は、20世紀を代表する大歴史家トインビーからの求めに応じ、1972年から2年越しで計40時間に及ぶ対談に臨んだ。
 この最中の73年元旦、学会本部での新年勤行会では、

 創価学会に脈打つ仏法の叡智を社会に開き、人類の共有財産としていく時代の到来。

と語り、

 そのためには原点に立ち返って、社会を建設し、文化を創造していく源泉である、仏法という理念を、徹底して掘り下げ、再構築していかなくてはならない。

と呼びかけている。
 1960年の会長就任から最初の10年余りで、民主音楽協会や東洋哲学研究所、公明党、創価学園、創価大学などの創立、さらに日蓮正宗総本山への大客殿、正本堂の建立寄進、会員数750万世帯の達成など、恩師・戸田第2代会長から託された願業をすべて実現した池田会長は、いよいよ本格的な〝世界との対話〟に挑もうとしていた。
 それは、トインビーとの対話のあと、まず初めの相手が冷戦下の中国、ソ連の首脳だったことに明らかなように、けっして布教のためなどという近視眼的な意図のものではない。
 会長自身が宣言したとおり、「創価学会に脈打つ仏法の叡智を社会に開き、人類の共有財産としていく時代」を開く、遠大な闘争の始まりだった。

ソクラテスの対話

 池田会長の「対話」には、傑出した2つの側面がある。
 1つは、徹底して〝相手から学ぶ〟という姿勢だ。
 会長は7000人を超える世界の識者と対話を重ねてきた。それらは、異なる文明、異なる宗教、異なる思想、異なる国の人々である。
 最高峰の知性たちと編まれた対談集だけでも、すでに80冊近い。その、どのページを開いても、会長は相手に何かを説き聞かせるのではなく、常に自分が相手から学ぼうとする態度を貫いている。
 実際、池田会長と会見した識者たちは異口同音に、この思いもかけない会長の謙虚な姿への感嘆を述べている。
 もう1つは、〝相手のなかに真理を見出す〟態度である。
 冒頭のモスクワ大学での講演に象徴されるように、会長はとりわけ仏法になじみのない国の人々と語る際、仏法の哲理を誰もが平易に共有できる概念に敷衍(ふえん)し、さらに相手の文化が持つ精神性や文学などに重ねて論じていく。
 それまで、仏教を自分たちとは遠い難解な異文化と思っていた相手は、たちまちのうちに自分たちが大切に育んできたもののなかに共通項を見出し、共感し、むしろ目から鱗が剝がれ落ちるように、自分たちさえ忘れかけていた、自分たちの内にある光輝に気づかされる。
 どちらの姿勢態度にも貫かれているのは、相手への尊敬である。
 結果として、会長と出会った相手は、会長の言葉を通して、そしてなにより会長の人格と振る舞いを通して、大乗仏教の精髄が持つ普遍性と人間性を深く理解していくのだ。
 池田会長と10回にわたる会見を行ったゴルバチョフ元ソ連大統領は、創価学会創立75周年に寄せた祝福のメッセージで、こう述べている。

 池田先生は、東西冷戦によって分断された世界を駆けめぐり、人々の心の中に安心と信頼の輪を幾重にも広げました。対話という唯一の武器を持って戦われたのです。まさにソクラテスの対話を蘇らせた方であります。

世界に広がる「池田思想」

 こうして積み重ねられてきた膨大な言論戦は、21世紀に入り「池田思想」という形で世界各国に認知され共有されるようになった。
 学術界で池田思想研究がもっとも盛んなのは中国で、北京大学や復旦大学など40近い名門大学に「池田大作思想研究センター」等が設置されている。学長や副学長が研究所長を務めている大学も多い。
 日中関係が最悪の状況に冷え込んでいた2014年でさえ、会長の初訪中40周年を記念した第8回「池田大作思想国際学術シンポジウム」が、西安にある陝西(せんせい)師範大学で開催され、中国と諸外国の43大学・機関から107人の研究者が出席した。
 池田思想研究の学術シンポジウムは、台湾の名門・中国文化大学でも毎年開催され、今年(2017年)もすでに11回目が開かれている。
 重要なのは、日蓮仏法や創価学会という宗派の思想としてではなく、池田大作という人間の思想として、世界で共有されはじめている点だ。
 一宗派の思想になってしまえば、異なる文明、異なる思想・宗教の国や社会にとって、いかに優れていてもそれは〝異質な叡智〟でしかない。
 しかし、池田大作という一人の人間の70年にわたる行動に即した思想は、どの国、どの社会にとっても普遍であり、自分たち本来の精神性を昇華させてくれる叡智となる。
 会長はじつに見事に、仏法の真髄の叡智を人類の共有財へと開いてきた。仏教は一般的にキリスト教やイスラム教と並んで「世界宗教」と表現されることが多いが、日本も含めて実際には国ごとのナショナリズムの枠内に閉じ込められてきた。
 その意味で、仏教は池田会長によって、真の意味での「世界宗教」として再構築されたといって過言ではない。
 そして、この〝池田大作という人間の思想と行動〟として体現された仏法の精髄は、今や世界192ヵ国・地域に広がったSGIの、幾百万の青年たちの生き方へと継承され、地域や職場、家庭といった人々の営みの中に、日々息づいて光彩を放っているのである。

「池田SGI会長70年の軌跡」シリーズ:
池田SGI会長70年の軌跡(上)――「民衆が世界を変える時代」開く
池田SGI会長70年の軌跡(中)――仏法の叡智を人類共有の宝に
池田SGI会長70年の軌跡(下)――新しい世界を開くための教育

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あおやま・しげと●東京都在住。雑誌や新聞紙への寄稿を中心に、ライターとして活動中。著書に『最新版 宗教はだれのものか 世界広布新時代への飛翔』、『宗教は誰のものか』(ともに鳳書院)など。