「給付型奨学金」が実現――奨学金拡充の歩みをリードした公明党の戦い

衆議院議員・富田茂之
参議院議員・佐々木さやか

 日本の奨学金制度の拡充の道を常に開いてきたのが公明党である。国政・都政ともに公明党が果たしてきたその役割について語り合う。

半世紀訴え続けた給付型奨学金

佐々木 私たち公明党青年委員会は、どこまでも「若者の味方」であるとの自覚に立ち、若者世代の声を政治の場に届けてきました。
 2014年には、青年委員会でまとめた「青年政策アクションプラン」を安倍晋三首相に提言しました。そこでは誰もが安心して進学できる環境づくりに向けて、返済不要な給付型奨学金の創設を提言しています。
 その給付型奨学金がようやく実現されることになりました。給付型奨学金の創設は、公明党が以前より一貫して提言してきたものです。今日は公明党議員として、これまで奨学金の拡充に携わってこられた富田さんにお話を伺いたいと思います。

富田 奨学金は、給付型が本来のあるべき姿だと思いますが、日本の奨学金制度は貸与型からスタートしました。そのはじまりは1943年に遡ります。当時、大蔵省(現財務省)主計局主査だった大平正芳元首相は、奨学金制度をつくるにあたり、「育英事業を国が行う以上、本来『給費』制にすべきだ」(大平正芳『私の履歴書』)と給付型での制度設計を考えていました。しかし、限られた財源のもと、当時の主計局長や文部省(現文部科学省)が貸与型を支持したこともあり、一部の英才のためではなく、できるだけ多くの人を対象にした貸与型にするところから日本の奨学金制度は始まりました。

佐々木 公明党が給付型の奨学金を提言したのはいつ頃だったのでしょうか。

富田 1969年の国会質問で、公明党は給付型奨学金のことを取り上げています。ここをスタート地点に、公明党は半世紀にわたって一貫して給付型奨学金の創設を訴えてきました。
 公明党が進めてきた奨学金拡充の歴史は、有利子奨学金から無利子奨学金、そして給付型奨学金と段階的ではありましたが、ここにきてようやく本来のあるべき奨学金の姿に辿り着いたのです。

現場の声を形にする公明党

佐々木 今回実現した給付型奨学金では、2017年度から一部先行の形で約2800人を対象に給付がスタートし、翌年度から本格的に約2万人を対象に、毎月2万~4万円が給付されることになりました。

富田 金額について、公明党としては最低でも5万円を主張してきました。現場へのヒアリングをしたところ、月額3万円を軸とする自民党案では、十分な額ではないと判断したからです。しかし、厳しい財源の中、結果としては自民党案で落ち着くことになりました。ただ公明党としては、そこから一歩踏み込み、児童養護施設の出身者など、本当に支援を必要としている人に限って、給付額の部分で特別に配慮した支援を申し入れしました。zu

佐々木 児童養護施設出身者だけ給付額を変えるのは不公平との意見もあったようですね。

富田 はい。そこで月額の給付額を変更するのではなく、入学時に入学金相当を給付する特別支給を申し入れたのです。
 現在、全国の大学・専修学校等への進学率が73.2%であるのに対し、児童養護施設出身者の進学率は22.6%と低く、生活困窮の状態が進学率に影響を及ぼしていることがわかりました。ここを何とかしなければいけないということで、文科省に調査を依頼したところ、児童養護施設出身者の多くが短大や各種学校など、就学期間が2年間の学校に進学していることがわかりました。その場合の入学金は平均で24万円です。親からの支援が難しい中、それだけの入学金を払うことはとても大変なことです。そこで公明党が提案した入学時の段階で24万円を支給できる特別支給が実現することになりました。
 公明党は、こうした社会的養護が必要な人たちに向けた奨学金の拡充を一貫して訴えてきましたが、今回、このような良い形で実現できたことは大きな前進です。

福祉を政治の表舞台に押し上げた

佐々木 奨学金拡充の歩みをリードした公明党の戦いについてさらに詳しく教えてください。奨学金拡充の議論が深まっていったのはいつ頃からでしょうか。

富田 1999年10月に発足した自自公連立政権の直前の時期です。当時の私の国会報告に遡ってみると、その前年の98年12月に、野中広務官房長官に対して、「家庭教育費の負担軽減をはかるため、希望するすべての高校・大学生等に入学金等を含めた奨学金を無利子で貸与できる新しい奨学金制度の創設」について提言しています。
 この頃から公明党は、野党にいながらも政策審議会長だった坂口力さんと児童手当を担当していた福島豊さん、そして奨学金担当を務めていた私の3人で、奨学金・児童手当の拡充について、自民党と毎日のように議論を重ねていきました。

佐々木 当時、自民党は、奨学金や児童手当の拡充についてどのような反応だったのでしょうか。

富田 当時の自民党議員からは「子どもに予算をつけても票にならないのに、何のためにそれほど熱心に取り組むのか」と言われていましたね。

佐々木 「大衆福祉」をスローガンに掲げる公明党に対して、既成政党から「福祉は政治ではない」といった批判があったことを私も多くの先輩議員から聞きました。

富田 それが99年以降、少しずつ変わってきたのです。ものすごい経済不況の中、全国の公明党議員のもとには「不況の影響で子どもの進学を断念せざるをえない」「高校の学費が払えず中退しなければいけない」といった悲鳴にも似た相談が数多く寄せられていました。公明党は、その声に応えるべく、政治の中で奨学金や児童手当の拡充に取り組んできたわけです。そして、そのような声が自民党議員のもとにも届くようになり、ようやく自民党も奨学金や児童手当拡充の必要性に気づき始めていったのだと思います。tomitasigeyuki

佐々木 今では政治と福祉は切り離せないものですが、それも公明党が粘り強く訴えてきた歴史があったからこそなのですね。

富田 その通りです。自民党と連立を組むようになり、18年ほどが経ちましたが、現場の声を大事にする公明党の精神にようやく自民党が追いついてきた、という感じでしょうか。
 そのことが安倍首相の言動にも顕著です。たとえば従来なら、教育再生実行会議の場に首相が出席しても、冒頭の挨拶だけで退席することがほとんどでした。しかし、今の安倍首相は委員の話をしっかりと聞き、自分の感想を述べてから席を立ちます。それだけ安倍首相も公明党との付き合いの中で、意識が変わってきたのだと思います。

「希望するすべての学生」を支援する制度へ

佐々木 1999年当時の議論で、いちばん大きく変わったところは何だったのでしょうか。

富田 99年2月の自民・公明両党の幹事長会談での「確認書」で、「両親等の教育費負担を軽減するとともに、勉学に熱意のある本人の希望に応え、新しい奨学金制度を創設する」との一文が書かれました。
 この一文こそ、日本の奨学金制度が、学ぶことを希望する学生すべてに貸与する制度へと転換する歴史的な一歩でした。
 具体的には、公明党が提言した「新教育奨学金」をもとに、99年度から始まった第2種奨学金(きぼう21プラン、有利子)で、有利子奨学金の成績要件が事実上撤廃されたことです。これによって希望者のほぼ全員が奨学金を受けられるようになりました。

佐々木 2017年度からは、公明党の主張により、無利子奨学金の成績要件も実質的に撤廃されることになりました。これも当時のその転換点からつながっているのですね。

富田 そう思います。

佐々木 奨学金の拡充が進んできた一方で、若い世代の人の話を聞いてみると、奨学金の返済に苦しむ若者も増えていますね。

富田 これまで奨学金の拡充に取り組んできた中で反省している部分がまさにその問題です。返済のことをあまり考慮しないまま多くの額を受給してしまい、返済に苦しむ学生がいます。司法修習生の中には1300万円も返済しなければいけないという方もいました。

佐々木 それだけの額を返済しようと考えると、結婚や出産を躊躇する人も出てきますので、返済の部分をセットにして考えていくことが大切ですね。

富田 そうだと思います。日本人は真面目な性格なので、借りたものはしっかり返す人がほとんどです。実際のところ、3ヵ月以上延滞している人の割合は全体のごく一部しかいません。だからこそ、少しでも返しやすくなる制度が必要です。公明党が主張した新たな所得連動返還型奨学金は、まさに無理なく返済していける制度として整備されたものです。ただ、既卒者は対象ではないので、今後、検討していく必要があります。
 また、減額返還制度や返還期限猶予制度についてもまだまだ知らない人が多くいますので、今後は相談窓口についてもしっかりと整備していきたいと思います。

財源を示してこそ実現できる

佐々木 公明党は大学だけでなく高校進学時の経済的負担の軽減も訴えてきました。都議会公明党が主張してきた東京都私立高校の平均授業料分の実質無償化もまさにこれにあたります。このたび東京都は、2017年度から世帯年収約760万円未満の世帯を対象に、国の就学支援金に加え、都独自の授業料軽減助成金を増額し、私立高校の平均授業料分を実質無償化する方針を決定しました。sasakisayaka

富田 私立高校授業料の実質無償化については、財源のある東京都が先行して実施することで、そこから全国へと広がっていく突破口になるものと思いますので期待しています。
 安心して進学できる大事な制度ですので、今後の制度設計にあたっては、十分に問題点などを考慮しながら検討していただきたいと思います。

佐々木 この東京都の方針決定についても、その実現の舞台裏は公明党を抜きに語ることはできません。そのことは一般紙の報道を見てもわかります。
 報道によれば、「『公明党と話が整った。一致できてよかった』と強調した」(2017年1月17日付『日経新聞』)「『公明党さんとも〈これでいこう〉と話が整った』と舞台裏を明かした」(1月17日付『東京新聞』)と小池百合子都知事が公明党の名前を出しているように、都議会公明党の強い要望により実現したことは明らかです。
 しかし、共産党はあろうことか、あたかも自分たちの実績であるかのように、機関紙等で報じています。

富田 ある奨学金のシンポジウムの場で、共産党議員は70万人に3万円を支給すると言っていました。その根拠を聞いたところ、およそ140万人が奨学金を受けているから、その半分の人に3万円を支給すると言うのです。こんな大ざっぱな話はありません。その上、その財源はどうするのかと聞けば、「防衛費を削ればいい」などと言い出します。全く根拠が不明確で、めちゃくちゃです。
 そもそも政策を実現していくには、財源を提示することが欠かせません。財源がないものは絵に描いた餅でしかなく、予算がついてこない政策などありえないのです。にもかかわらず、共産党は反対ばかりで予算にも反対しているわけですから、「しんぶん赤旗」の報道にあった「質問したから実現した」などというのは全くの論外です。この構図は国政も都政も同じです。

佐々木 共産党による実績横取りは、選挙を控えた時ほど目立ってきます。しかし、給付型奨学金・東京都の私立高校授業料実質無償化の実現を公明党が果たしてきた事実は明らかです。首都東京の命運を決する重要な都議会議員選挙を目前に、しっかりとそのことを訴えていきたいと思います。(※2017年7月の都議選前の対談)

富田 実は、麻生政権の時、高校の給付型奨学金をつくろうとした経緯があり、その時は455億円の概算要求を出しました。しかし、すぐに政権交代があったため中断してしまいました。その後の民主党政権でも123億円の概算要求がなされましたが、結局実現しませんでした。もしあの時に民主党が本気になって取り組んでいれば、高校の給付型奨学金はとっくに実現され、大学についてももっと早く実現していたわけです。その意味では民主党にも責任はあります。
 そのように考えると、都政も国政もやはり公明党がしっかりと中心になって取り組んでいかなければ、制度は前に進んでいかないことは明白です。さらなる給付型奨学金の拡充に向けて、今後もしっかりと取り組んでいきます。

佐々木 私たち公明党青年委員会としても、公明党ならではの現場感覚を忘れることなく、「若者の味方」としてより一層全力で取り組んでまいります。

<月刊誌『第三文明』2017年4月号より転載>


とみた・しげゆき●1953年生まれ。千葉県銚子市出身。一橋大学法学部卒。弁護士。衆議院議員(当選7回)。公明党幹事長代理・中央幹事、公明党千葉県本部代表、公明党教育改革推進本部本部長、公明党給付型奨学金推進PT座長、文部科学部会部会長。財務副大臣、法務副大臣、衆議院経済産業委員長等を歴任。

ささき・さやか●1981年生まれ。青森県八戸市出身。創価大学法学部卒、同法科大学院修了。弁護士。2013年7月、神奈川選挙区より参院議員に初当選。公明党学生局長・青年委員会副委員長、同女性委員会副委員長。憲法調査会事務局次長、法務部会長代理、東海道方面副本部長。