『共産主義の誤謬』の著者が語る、日本共産党の欺瞞

歴史資料収集家
福冨健一

共産党の根底にあるもの

 このところ、選挙で日本共産党が議席を増やしています。しかしそれは、共産党への理解が深まったというよりもむしろ、多くの人が共産党の実態を知らないからだと私は見ています。それでは、共産党の実態とはいったいどのようなものなのでしょうか。
 共産党は1922年、コミンテルン(共産主義インターナショナル)日本支部として発足しました。要するに、旧ソ連の出先機関です。普通の政党は、自国の国民が自国を良くするために集団を形成します。共産党はそうではないのです。
 共産党の根底にあるのは、カール・マルクスの唱えた「史的唯物論」です。これはドイツの哲学者ヘーゲルの弁証法とフォイエルバッハの唯物論、ドイツの法学者シュタインが分析したフランス社会主義の影響を受けて生まれたものです。
 史的唯物論では、人類の歴史は5段階を踏むと考えられています。

①私有財産のない原始共産社会 ②古代社会、奴隷制 ③封建制 ④資本主義 ⑤革命によって達成される社会主義・共産主義社会

――です。共産党では、常にこの流れに現実を当てはめようとします。今の日本は④資本主義ですが、日本共産党が誕生した1922年段階では、天皇制があるために③封建制が残る形と考えていました。
 また、61年の綱領から現在に至るまで、日本は「アメリカ帝国主義と日本独占資本主義」が支配していると見ています。したがって共産主義革命をやる前に、まずは「アメリカ帝国主義と日本独占資本主義」を倒すための民主主義革命をやるべきだと考えるのです。日米安全保障条約の破棄、在日米軍基地の完全撤退、非同盟・中立、自衛隊解消などの〝丸腰〟な安全保障政策を主張しているのも、背景にあるのは革命による「アメリカ帝国主義と日本独占資本主義」の打倒なのです。

護憲政党というまやかし

 共産党は護憲政党であるかのように考えている人が多いかと思いますが、実態は違います。そもそも日本国憲法制定に反対した唯一の政党が共産党です。1946年に憲法を制定した際、共産党の国会議員は6人全員が反対票を投じました。後に共産党議長を務める野坂参三は憲法制定議会で、自衛のための戦争は「正しい戦争」であると主張。憲法9条について、野坂は国会で

〈一個の空文に過ぎない〉

〈平和主義の空文〉

と断言しました。
 2004年の綱領では

〈民主共和制の政治体制の実現をはかるべき〉

〈天皇の制度は憲法上の制度であり、その存廃は、将来、情勢が熟したときに、国民の総意によって解決されるべき〉

とうたっています。それまでの綱領とは違い、時期の明言は避けるようになったものの、憲法改正によって天皇制を廃止すべきという立場です。13年に刊行された志位和夫委員長の 著書『綱領教室』(第3巻)でも

〈民主共和制の実現をはかるためには憲法改定が必要ですし、そのためには国民の圧倒的多数の合意が成熟することが不可欠です〉

と書いてあります。
 共産党が目指す社会では、生産手段を社会全体の共有財産とするので、私有財産にも制限がかかります。最終的には憲法改正を目指していることをあまり表に出さず、護憲政党であるかのように見せかけているため、国民にはわかりにくい形になっているのです。

資本金10億円以上の大企業は国有化!?

 2016年7月の参議院選挙から、民進党と共産党による選挙協力が本格的に始まりました。万が一共産党が政権与党に参画するようなことになれば、日本はどうなってしまうのでしょう。共産党の綱領を読むと、日本経済の行く末が破滅的になることがわかります。
 共産党は1994年版の綱領で「大企業の生産手段の社会化」、2004年版の綱領では「主要な生産手段の社会化」を掲げています。綱領では「生産手段の社会化」について具体的な方法は記されていませんが、志位和夫委員長は、共産党の統一戦線の対象者から「資本金10億円以上の(企業の)役員」を外すと語っています。
 資本金10億円以上の大企業を国有化すれば、株価が暴落し、金利が高騰することは間違いありません。企業の国際競争力は破綻し、日本に進出しているグローバル企業は撤退します。GDP(国内総生産)は大きく下がり、社会福祉の財源を捻出するどころではありません。
 ノーベル経済学賞受賞者のフリードリヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンをはじめとする経済学者は、「共産主義社会は貧困への道」「自由ではなく隷属への道」と口々に警告しています。そもそも、ソ連はとっくに崩壊しましたし、共産主義社会は世界中どこでも成功していないことをよく認識するべきでしょう。

世界中から危険視される共産主義

 世界を見渡すと、共産主義国家は中国、北朝鮮、ベトナム、ラオス、キューバの5ヵ国しかありません。欧米の先進国を見渡すと、共産党が国会に議席を持っている国は日本とフランスだけです。アメリカでも他のヨーロッパ諸国の国会でも、共産党の議席は1つもありません。
 ナチス・ヒトラーを生んだ苦い教訓に学び、ドイツ基本法は〈自由で民主的な基本秩序を侵害〉する政党は違憲であると定めました。旧西ドイツのアデナウアー首相は「共産主義は必ずファシズム体制に移行する」と考え、1956年に「ドイツ共産党は違憲」と見なされて解党されます。韓国の憲法も、ドイツと同じ規定になっています。
 イギリス労働党やドイツ社会民主党などが参加する国際組織「社会主義インターナショナル」は、「共産主義は教義である」として、共産主義を排除しました。その結果、欧米諸国から共産党議員が消滅したのです。かつて「クレムリンの長女」といわれたフランス共産党も、今や衰亡の危機にあります。
 政党設立の自由はもちろんあるのですが、同時に民主主義を破壊する者には毅然と立ち向かう。これはどの国でもきちんとやっていることなのです。

 日本共産党は結党以来、マルクスやエンゲルス、レーニンの思想に基づいて活動してきました。マルクスとエンゲルスが共同執筆した『共産党宣言』には〈法律、道徳、宗教は(略)ブルジョア的偏見である〉と書かれています。レーニンは、人間が〈社会的、政治的および精神的生活過程一般〉を規定するのではなく、物質がそれらを規定するのだ、と考えました。
 このように唯物論に偏った人間観とは対照的に、フランスの哲学者アレクシ・ド・トクヴィルは

〈人間は信仰をもたないならば隷属を免れず、自由であるならば、宗教を信じる必要がある〉

と喝破します。マルクスやレーニンが言うように、物質さえ満たされれば人格が完成されるわけではありません。法律、道徳、宗教といった歴史と伝統があって初めて、人間は「高貴な自由」を手に入れることができるのです。
 マルクスやレーニンの思想に重大な落とし穴があるからこそ、ドイツで憲法によって禁止するなど、欧米社会は共産主義を排除してきました。共産主義の思想には根本的な誤りがあり、人間を不幸にするのです。

 私は、アジア諸国や欧米からのお客さまをご案内することがよくあるのですが、彼らは、国会で共産党が多くの議席を占めている様子を見て「世界第3位の経済大国の日本に、どうしてこんなに共産党議員がいるのか」と驚きます。共産主義の思想が時代にそぐわないことは、世界の常識なのです。
 先日、公明新聞(6月22日付)が共産党について、

「他党の実績を横取りするハイエナ政党」「オウム真理教と同じ公安の調査対象」「北朝鮮について『危険はない』と的外れな発言」

という3つのポイントを挙げ、問題点を明らかにしました。こうした事実をしっかり国民にアピールするのは、大変重要な仕事です。
 共産主義は日本にとって必要なのか。共産主義は人類にとって是か非か。これまで日本ではこの問いに正面から向き合ってきませんでした。今こそ真剣に考える時期ではないでしょうか。

kyosango

『共産主義の誤謬――保守政党人からの警鐘』
福冨健一著

中央公論新社
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ふくとみ・けんいち●1954年、栃木県生まれ。歴史資料収集家。東京理科大学卒業。民社党政策審議会部長、民間シンクタンク、民主党政務調査会部長、自由民主党政務調査会部長代理などを歴任。これまで消費税法案、憲法調査会設置法など重要な法律の形成に携わってきた。著書『南十字星に抱かれて 凛として死んだBC級戦犯の「遺言」』『東條英機 天皇を守り通した男』『東條英機の中の仏教と神道』『重光葵 連合軍に最も恐れられた男』。民社党、民主党、自民党に所属してきた経験に基づき、日本共産党の綱領と思想性を精緻に解読した近著『共産主義の誤謬 保守政党人からの警鐘』(中央公論新社)が話題。