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東京発の「ヘルプカード」で育む「心のバリアフリー」

特定非営利活動法人「虹色の風」代表理事
平山淳子

 人工関節や義足、自閉症や内部障害、難病など、外見からはわからない障害を示す「ヘルプカード」の推進が東京都から始まった。

自閉症の息子に光を当てた公明党の都議

 私には、生まれつき自閉症の障害がある息子がいます。大きな声や音を聞くとパニック状態になってしまったり、耳に入る音を自分で加減するために両耳を自分の手でふさいだりと、自閉症の子が示す動きはさまざまです。
 手をずっとヒラヒラさせていたり、鏡の前で踊ったり、独特の動きをする子もいます。健常者から見ると、それはおかしな動きに思えるかもしれません。でも自閉症の人たちは、そういう動きをしたり独り言をつぶやくことによって、自分の気持ちと折り合いをつけているのです。

 自閉症の子どもを持つ親は、小さなころから「人と会ったときには、とにかく自分から『おはようございます』とか『こんにちは』『さようなら』とあいさつしようね」と教えます。ところが、あいさつの声が大きすぎたり、何度も「おはようございます」とあいさつするせいで相手が怖がり、警察に通報されて大騒ぎになる事例が実際にあるのです。そんなとき、本人は自分が自閉症である事実を相手にうまく説明できません。「僕はただあいさつをしたかっただけです」とも言えないのです。

 軽度の自閉症ですと、障害を抱えていることは外見的にはまったくわかりません。体の中に人工関節が入っていたり義足をつけていたり、内部障害(内臓の機能障害)や難病を抱えている人も同様です。
 どうにかして、私の息子のように障害のある人たちが生きやすい社会をつくれないものか。2009年春、東京都品川区で街頭演説をしている公明党の伊藤興一都議会議員を見かけました。私は意を決して伊藤議員に声をかけ、次のように申し上げたのです。

「私には障害のある子どもがいます。この子が一人で社会へ出るようになったとき、たとえ災害や事故に遭遇したとしても、まわりの人が支援の手を差し伸べてくれる東京都をつくってほしいんです。」

 普通の議員であれば「そうですか。大変ですね」で終わってしまう話ですが、伊藤議員は私の声に真摯に耳を傾けてくださいました。そしてその年の9月の都議会で、ひと目で障害があるとわかる「ヘルプカード」の作成を提案してくださったのです。
 伊藤議員は、かつて品川区の職員として児童センターに19年間勤務した経験があるそうです。そのため、自閉症の子と接する難しさをよくわかっていました。
 伊藤議員は11年2月にも都議会でヘルプカードの必要性について訴えたものの、東京都の対応は前向きではなかったようです。

 その翌月の3月11日、東日本大震災が起きて東京都は最大で震度5強の強い地震に見舞われました。震災が起きたのは金曜日の午後2時台だったこともあり、この日、東京都内には350万人もの帰宅困難者が発生しました。緊急事態に際してどうすればいいかわからない帰宅困難者のなかには、私の息子のように障害を抱える当事者も大勢いたことでしょう。
 こうした事態を受け、12年10月、東京都はついに標準様式を定め、ヘルプカード作成へと踏み切ったのです。赤地に白の十字とハートマーク(=ヘルプマーク)が入ったヘルプカードは、かばんなどに取りつけ、カードの裏側には障害の内容を詳しく書ける欄があります。
 東京都はヘルプカードを推進する自治体に財政支援を始め、これまで都内の52市区町村にまで広まりました。公明党議員が動いてくれたおかげです。

外からは見えない障害をカードで可視化

 ヘルプカードを初めて見たとき、誰が見てもわかりやすいデザインに驚きました。日本中どこを旅行していても、誰が見ても、ヘルプカードさえあれば「この人は障害があるのだな」とひと目でわかってもらえます。helpmark
 標識やマークは、地域ごとにデザインが違うことは珍しくありません。ブルーや黄色、ピンクなど、どの色を使うかによって印象は大きく変わります。ヘルプカードに印刷されている赤と白のヘルプマークは、デザインのクオリティーが極めて高い。世界に広めても恥ずかしくないレベルだと思います。

 都営大江戸線(12年度)やすべての都営交通(13年度)、ゆりかもめや多摩モノレール(14年度)、民間バス(15年度)など、すでに東京都ではヘルプマークの車内掲示が進んできました。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、外国人旅行者はこれからさらに増えていきます。日本人のみならず、外国人にもわかるヘルプマークとヘルプカードは、これから大きく役立つはずです。

 まずは「私は障害を抱えています」という事実をヘルプカードによって周囲に知ってもらう。ヘルプカードを見た人は、「何かお手伝いしましょうか」と静かに優しく声かけするところから行動を始めていただければと思います。
 また、ヘルプカードは、自身が障害のある当事者だと公表していることにもなりますので、多くの人が障害について考えるきっかけになればとも思っています。
 助けを求めたくても、なかなか自分からは声を出せない人がいます。そういう人たちが、当たり前のように「手を貸してください」と言える社会を私たちはつくるべきではないでしょうか。

首相も認めたヘルプカード

 公明党には、全国に3000人もの地方議員のネットワークがあると聞きました。東京都でヘルプカード推進が始まると、伊藤興一議員のもとに、長崎県雲仙市で活動する公明党の平野利和市議会議員から「ヘルプカードはどうやって導入したんですか」と直接電話がかかってきたそうです。
 平野議員は14年3月の市議会でヘルプカード導入を提案し、15年10月から雲仙市でヘルプカード導入が始まりました。東京都で始まったヘルプカードは、次々と全国の自治体に広がっているそうです。公明党のネットワークを生かし、今後さらに広げていかれることを期待します。

 17年3月、政府はヘルプカードに印刷されているヘルプマークを、7月からピクトグラム(絵文字)の国内規格(JIS)に追加することを決めました。これを踏まえて公明党の浜田昌良参議院議員が、東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて「心のバリアフリー」を進めていく必要性を国会で訴えました。安倍晋三首相は次のように答弁しました。

 義足や人工関節を使用している方、あるいは内部障害や難病の方、又は妊娠初期の方々など、周囲からの援助や配慮が必要でありますが、そのことが外見からは容易に分からない場合が多いのは事実であります。ヘルプカード及びヘルプマークは、そうした方々が援助や配慮を必要としていることを周囲に知らせることができるよう東京都が作成しているものでありまして、障害及び障害者への理解や配慮を促進する上で大変意義があると考えています。(3月24日、参議院予算委員会)

 国会でヘルプカードを〝首相公認〟にしていただけた。これは自閉症の息子を持つ私のような家族にとって、非常にありがたいことです。〝声なき声〟をすくい上げ、国が認めるところまで持っていってくださったのです。いくら私のような当事者が声を大にしてヘルプカードの必要性を叫んだとしても、議会で取り上げて、具体的に推進してくださる議員がいなければ、それは「なかったこと」と同じです。

 災害や大震災のような緊急事態が起きたとき、自閉症や発達障害といった難しい障害を抱えた当事者に、警察官や消防署の職員がどう接していいかわからない場面もあると思います。ゆっくり静かに話しかけるのが原則なのですが、周囲が大きな声を出したせいで当事者がパニック状態になったり、暴れ出したりして、二次災害が起きてしまうこともあるでしょう。
 そうした事故をなくすためにもヘルプカードは有効です。来る東京オリンピック・パラリンピックは、世界にヘルプカードをアピールする大きなチャンスではないでしょうか。

月刊誌『第三文明』2017年7月号より転載>

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ひらやま・じゅんこ●自閉症の次男が川崎病(全身に発症する血管炎症)を発病。次男の誕生から中学生までの歩みを著書『お母さん、泣かないで』として出版。臨床美術士としても活動。2009年4月に特定非営利活動法人「虹色の風」を設立。自閉症児やその家族の支援活動、自閉症に関する正確な情報の発信に努める。17年1月には「虹色の風」監修のもと、国立新美術館で「地域で共に生きる障害児 障害者アート展」を開催。