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「2015年体制」と「潮止まり」の政治状況

立命館大学大学院特別招聘准教授
西田亮介

 政治に無関心ではやり過ごすことができない時代が目前に迫っている。

2020年まで続く長期安定政権

 2014年12月に行われた衆議院選挙で、自民・公明の与党は大勝しました。今後、今年4月には統一地方選挙があります。16年には参議院選挙、18年の任期満了までには衆議院選挙が、そして19年には再び参議院選挙があります。
 16年に衆参ダブル選挙になる可能性もあり、このダブル選挙で与党が勝てば、2020年の東京オリンピックまで安倍晋三政権が続くでしょう。15年から20年まで、現在と似た政治環境が継続することは明々白々です。
 今年(2015年)1月18日、岡田克也氏が民主党代表選挙に当選しました。しかし代表選挙の論戦を見る限り、民主党が有権者から信頼を得るのは厳しいと言わざるをえません。特に選挙序盤では岡田氏が討論会で細野豪志氏の内輪話を暴露したりと、彼らは内輪で足の引っ張り合いをしているようにも見えました。
 今の民主党には、党としてのイメージを改善しようという配慮が感じられません。代表選の候補者同士で泥仕合をしているのですから、党のイメージはますます悪くなる一方です。現状では4月の統一地方選挙で、民主党に大きな支持が集まることはないでしょう。地方基盤を固められなければ、16年以降の国政選挙で民主党が大勝する可能性も考えにくい。
 09年から12年までの3年3ヵ月間、民主党の政権運営の稚拙さはよく知られているとおりです。その民主党を含む野党を今から再編し、急造政党で政権交代を起こしたとしても、そのときの二の舞いになるのは明らかです。
 与党としての統治の経験がある政党は、民主党以外には自民党と公明党しかありません。野党第1党である民主党さえ現在の体たらくなのですから、2020年までに今の野党が与党として政権を担う可能性は極めて低く、あったとしても容易に長期の政治的安定が続くことはないでしょう。

「2018年ショック」と若者雇用対策法案

 私が勤務する大学業界では「2018年ショック」が起きるといわれています。子どもの出生数は年間110万人前後でここしばらく安定していたのですが、18年から18歳人口が再び減り始めるのです。あまり報道されていないだけで、すでに私立大学の統廃合や学生募集の停止は進みつつあります。大学の倒産や統廃合の流れは、18年以降さらに加速することが予測されます。
 そしてこの「2018年ショック」は大学のみの問題ではありません。少子高齢化と社会のダウントレンド(下降傾向)は、いたるところで問題になります。社会が長期的にダウントレンドに向かうという前提に立ったうえで、政治家は日本を統治しなければいけないのです。
 シンガポールのリー・シェンロン首相が、「ジャパン・タイムズ」の記事を引用しつつフェイスブックに興味深い投稿をしていました(14年12月29日)
「日本と同じように、シンガポールも急速に高齢化社会へ向かっている。13年、シンガポール人の9人に1人は65歳以上だった。14年には8人に1人が65歳以上になった(日本は4人中1人)。われわれは日本と同じような事態を起こしてはならない」(抄訳)
 日本の政策をよく研究してきたシンガポールの首相からこう見られているのですから、日本の人口減少社会はかなり厳しいと言わざるをえません。
 そんななか、若者対策を大きく打ち出している政党は、実は野党ではなく与党です。1月から始まった今年(2015年)の通常国会に、与党は「若者雇用対策法案」を提出しました。若者の雇用に力を入れる企業を政府が認定し、助成金を交付する計画です。
 そもそも若者支援のベースをつくったのは、民主党政権ではなく第1次安倍内閣(06年9月~07年8月)でした。自民党と公明党は、あのとき地域若者サポートステーションやジョブカフェをつくったわけです。
 昨年(2014年)5月、自民党はJA全中(全国農業協同組合中央会)を解体する方針を決定しました。JAという従来の大きな支持層を切るのは、自民党にとって大きな転換です。自民党は、維新の党のような都市型政党が得意とする規制緩和路線を取りこんでいます。今の自民党には、それだけの懐の深さと戦略の巧みさがあるとも言えます。そのうえで若者の雇用支援を本格的に進めようというのですから、ますます民主党が入り込む余地がなくなってきています。

一時的な「潮止まり」と超高齢社会の到来

 2014年12月の衆議院選挙期間中、私は毎日新聞と協力して「イメージ政治の時代――毎日新聞・立命館大『インターネットと政治』共同研究」を実施しました。毎日新聞のインターネットサービスを使い、18万1575人を対象として政治への喜怒哀楽の感情を調べています。
 すると36%が「イライラする」と回答し、21%は「かなしい」、15%は「なんとも感じない」、5%が「たのもしい」と答えました。政治にイライラしている人が36%もいるにもかかわらず、彼らの多くは自民党支持者です。ほかに投票したい政党が1つもないため、消去法で自民党に投票しているのでしょう。(毎日新聞社 衆院選:「いらだち」民意漂流
 釣りやサーフィンをやる人の間では「潮止まり」という言い方があります。海には潮の満ち引きがあるわけですが、干潮と満潮の間の20~30分間は、潮位の変化がほとんど感じられないのです。この時間帯は魚が釣れず、サーフィンをやろうとしても高い波はやってきません。2015年から数年間の日本の政治は、まさにこの「潮止まり」のような状態です。
 1955年に自民党が与党となってから、「55年体制」と呼ばれる長い一党支配の時代が続きました。民主党をはじめとする野党に対立軸が存在しない今の政治は、「2015年体制」とも呼ぶべき「潮止まり」のときです。
 しかし、今が一時的に「潮止まり」であるように見えても、厳しい少子高齢化は着実に進んでいきます。1950年、日本では1人の高齢者を12.1人の現役世代(15~64歳)が支えてきました。15年には、1人の高齢者を2.3人の現役世代が支えています。2060年にもなると、1人の高齢者を1.3人の現役世代が支える超高齢社会が到来するのです(『平成26年版 高齢化白書』)。
 右肩上がりの高度経済成長時代には、政治に関心を払わず、高齢化が進む未来を心配しなくとも社会は発展してこられました。そのような牧歌的な時代は、90年代初頭のバブル崩壊によってすでに終わっています。
 政治に無関心であってもやり過ごせた時代は、とうに過去のものとなりました。人口減少と高齢化、社会のダウントレンドは、今の若者世代にとって避けて通ることはできません。若者が政治に関心を示さず、いつまでも「潮止まり」の時代が続くと思っていれば、そのツケは確実に自分の身に跳ね返ってくるのです。今やっておくべきことは何か、真剣に考えなければいけない時期に入っています。

<月刊誌『第三文明』2015年3月号より転載>

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にしだ・りょうすけ●1983年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘准教授。博士(政策・メディア)。北海道大学大学院公共政策学連携研究部附属公共政策学研究センター研究員。毎日新聞社客員研究員。国際大学GLOCOM客員研究員。ソーシャルビジネス、情報化と政治、「新しい公共」などを研究。単著に『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』、共著に『無業社会』など。Tip.Blog――東京と京都を行き来しつつ