5

第44回「SGIの日」記念提言を読む(下)

ライター
青山樹人

「病者」を「良医」に転換する

 ヴァイツゼッカー博士の言葉を通して、平和の不在を病気に見立てたSGI会長の本意は、〝病に対する治癒〟というアプローチを重視する仏法の視座にある。
 法華経の「良医病子の譬え」に代表されるように、仏法の視点はあらゆる行き詰まりの本質を人間の内側に見て、そこを単に蘇生回復させるだけでなく、病者を良医に変えていく――〝命を救う存在〟へと転換するところにゴールを設定している。
 今回の提言でも会長は、この視座をアングリマーラという元殺人鬼の仏弟子における心の転機になぞらえながら、戦争の悲劇を繰り返さないために、戦争の衝動に駆られる国家悪をどう脱構築していくかを言外に示唆している。

 行為の禁止を強調するだけでなく、その行為とは正反対の〝命を救う存在〟へと踏み出すことを促すベクトル(方向性)は、社会の変革にまで通じる治癒の底流となり得るのではないかと、私は提起したいのです。

 そこにある「災い」を「災い」に終わらせず、命を救う方向へと転換していく。救いを求める側にいる人を、そのまま他者を救う人に転換していく。
 すべての人間のなかに、それを可能にする力強い力と豊かな智慧が具わっているのだと見る、仏法者ならではの視点である。

「人間中心の多国間主義」

 思えば池田会長は1995年1月におこなったハワイの東西センターでの講演で、早くも「人間のための安全保障」に言及していた。
 今回の提言でも、会長はグテーレス国連事務総長の発した警鐘に触れている。それは世界全体の軍事支出が増加する一方で、人道危機への対応のために必要な支援が不十分となる状態が続いていることだ。
 毎年2億人以上の人々が災害で被災し、8億2100万人が飢餓に見舞われている。

 この問題を考えるにつけ、〝そもそも安全保障は何のためにあるのか〟との原点に立ち戻る必要があると思えてなりません。

 こう綴った会長は、「国家の安全保障」という従来の発想が見落としてきた、過酷な状況を強いられて生きている人々の苦しみに言及する。
 会長は、昨年8月の国連広報局/NGO(非政府組織)会議の成果文書にあった「人間中心の多国間主義」の重要性に触れ、

 その意味で私は、同じ地球に生きる一人一人が「意味のある安心感」を抱くことができ、未来への希望を共に育んでいける世界を築くことこそ、「人間中心の多国間主義」の基盤にあらねばならないと訴えたい。

と述べている。
 もともと、この国連広報局/NGO会議で強調された「人間中心の多国間主義」は、SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みを前進させるアプローチとして示されたものだ。

 私は、この追求がそのまま、軍拡の流れを軍縮へと大きく転換する原動力となっていくに違いないと考えています。

 災害による過酷な生活、飢餓や貧困、環境破壊などにさらされている多くの人々に、「意味のある安心感」を与え、共に未来を切り開くためには、〝同じ人間〟として国家の枠を超えて連帯しなければならない。
 それがけっして夢想などではなく、すでに現実に実践されている姿として、会長は2002年に発足したアフリカ連合(AU)での取り組みを挙げている。
 ウガンダでは周辺国の難民を受け入れ、それらの人々に移動の自由や教育、土地などを提供している。タンザニアでは地元民と難民が共同で植林活動に従事している。

提言の「具体性」と「智慧」

 会長はさらにSDGsに関するものとして、「水資源の保護」についての具体的な提案をおこなっている。
 国連が昨年3月から「水の国際行動の10年」を開始したことを踏まえてのものだ。
 身近に安全な水を得られず、池や川などから不衛生な水を汲んで生活している人が世界に6億人以上いること。女性や子供たちが毎日の長い時間、重さに耐えながら水を運ぶことに従事させられていること。不衛生な水によって、大勢の子供たちが命を落としていること。
 こうした実態を指摘したうえで、会長は国連のなかに「水資源担当の特別代表」ポストを新設することを提案している。

 国連会合の定期開催を通じて、私が前半で論じたような「人間中心の多国間主義」のアプローチを、水資源の分野において定着させることが強く望まれると思うのです。

 そして、日本が水と衛生の分野では世界でもトップの援助国になっていることと、災害へのさらされやすさでは世界で5番目に高い国であることに言及。
 安全な水の確保に苦しんでいる世界の人々を救うため、日本が「人間中心の多国間主義」のリーダーシップを発揮することを呼びかけている。
 環境問題や災害対応、水資源の枯渇や汚染といったことがらは、本来、一国のなかだけで対処のしようがない。
 池田SGI会長はこれまでの提言でもそうであったように、そうした課題をそのまま多国間の連帯の仕組みへと転じ、そのことが必然的に相互の信頼と共存という「安全保障」につながっていくアプローチを指し示す。
 そこで触れられている内容の具体性、今すぐにでも取り組める現実性はもとより、この会長のしなやかな智慧こそ、毎年の「SGI提言」に学ぶべきものだと思う。

リンク:
「『SGIの日』記念提言を読む(上)」

創価学会公式サイトSOKAnet「記念提言のページ」

「SGI記念提言」関連記事:
第43回「SGIの日」記念提言を読む――民衆の連帯への深い信頼
第42回「SGI提言」を読む――世界には青年の数だけの希望がある

「青山樹人」関連記事:
共感広がる池田・エスキベル共同声明
学会と宗門、25年の「勝敗」――〝破門〟が創価学会を世界宗教化させた
書評『新たな地球文明の詩(うた)を タゴールと世界市民を語る』
カストロが軍服を脱いだ日――米国との国交回復までの20年


あおやま・しげと●東京都在住。雑誌や新聞紙への寄稿を中心に、ライターとして活動中。著書に『最新版 宗教はだれのものか 世界広布新時代への飛翔』、『宗教は誰のものか』(ともに鳳書院)など。