共感広がる池田・エスキベル共同声明

ライター
青山樹人

不屈の平和運動の闘士

 池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長と、ノーベル平和賞受賞者であるアドルフォ・ペレス・エスキベル博士の「共同声明」が、世界に共感を広げている。
 エスキベル博士は独裁政権下の祖国アルゼンチンをはじめ、軒並み軍事政権が誕生していた1970年代の南米で、人権団体「平和と正義のための奉仕」を創立。非暴力による人権擁護運動に身を挺した。その結果、77年にはアルゼンチン当局に逮捕され、14カ月間にわたって拘束と拷問を受けた。
 もともと著名な建築家・彫刻家であり、キリスト教徒として教派を超えた人権活動の啓蒙に取り組んできた博士の拘束に対して、カトリックやアムネスティをはじめ世界各国から釈放要求がアルゼンチン政府に届いた。78年6月、博士は釈放され、80年のノーベル平和賞を受賞した。
 エスキベル博士と池田会長の初会見は、1995年12月8日。かねてから会長の多くの著作を読んできた博士夫妻を、会長が東京の創価学会国際友好会館で迎えた。
 以来、両者は書簡を交わし、2009年には対談集『人権の世紀へのメッセージ』の日本語版(東洋哲学研究所刊)が、2011年にはスペイン語版が刊行されている。
 また、エスキベル博士はアルゼンチンSGIとの交流を深め、SGIとカトリック世界の相互理解にも努めてきた。初の中南米出身ローマ教皇となった現在のフランシスコ教皇は、既にブエノスアイレスの枢機卿だった時代に、アルゼンチンSGIとの交流をもっていた。

ローマで発表された共同声明

 こうした背景のもと、2018年6月5日、ローマにあるイタリア国際記者協会で、エスキベル博士と池田会長の名代である池田博正SGI副会長が出席して「世界の青年へ レジリエンスと希望の存在たれ!」が発表された(創価学会公式サイトSOKAnet)
 翌6日には、共同声明の発表を記念する「青年の集い」がローマ市内で開催され、イタリアの18のNGOに所属する約1000人の若者のほか、来賓としてローマ教皇庁大使、聖エジディオ共同体事務総長らが出席した。
 また同日、カトリック系テレビ局の生放送番組に博士と池田副会長が出演。エスキベル博士は、

 池田先生との共同声明は、青年が自身の人生の主役であり、建設者であってほしいとの願いから発表したもの。主役は青年であり、私たちは彼らと人生を共に歩まねばならない。それは、フランシスコ教皇が分かち合いを呼び掛けている通りだ。(聖教新聞2018年6月9日)

と、共同声明の意義を述べた。
 これらの反響は大きく、イタリアはもちろんフランス、スペイン、アルゼンチン、ブラジル、キューバ、韓国などのメディアが報じたほか、スペインにあるマドリード宗教間対話協会はウェブサイトで共同声明の内容を紹介した。

青年が未来を決定づける

 世界の青年たちよ! 人類の重要な挑戦のために連帯し、自らの人生と、新しき世紀の歴史を開く建設者たれ!
 人類がいかなる重大な試練に直面しようと、それに立ち向かう「青年の連帯」がある限り、希望は失われることはない。
 青年への限りない期待を込めて、この共同声明を発表したい。

 両者の共同声明は、この力強い呼びかけからはじまる。
 飢えと貧困という地球上の喫緊の課題に対し、国連が「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を発表していることを踏まえ、地上から悲惨の2字をなくすためにアジェンダに協力すべきことを訴える。
さらに、

 新しき時代創造への挑戦の波は、すでに生まれ始めている。

として、気候変動対策のために2016年に発効した「パリ協定」、2017年に採択された「核兵器禁止条約」を挙げた。
 およそ困難と思われる人類の課題解決の最大のカギとなるものは何か。
 博士と会長は、「青年の連帯」だと呼びかける。

 青年が厳しい現実に屈せず、前に進もうとする勇気を持てるか否か――。その現在の青年の姿が、未来を決定づける。

 そして、難民問題を筆頭に今も世界の多くの場所で人々が戦争と紛争の暴力、飢えの暴力、社会的暴力、構造的暴力によって生命と尊厳を脅かされていることに対し、

 困窮している人々に連帯し、その窮状を打開するために、我々は両手だけでなく、考え方と心を大きく広げなければならない。

と急所を指し示す。

世界市民教育の推進を

 さらに共同声明は、これら人類の諸課題を生み出している根源に、

 力や富を得れば得るほど、「全てを今すぐに手に入れたい」との思いを抑えきれない風潮が強まっている。

とし、仏法が洞察する人間生命に巣食う三毒(貪〈むさぼり〉、瞋〈いかり〉、癡〈おろか〉)が横たわっていることを指摘。
 自身の行動がもっとも貧しく無力な人々にどう影響するのか、その顔を思い浮かべながら判断することが、ガンジーの行動基準だったことを紹介し、

 そこには、国連のSDGs(持続可能な開発目標)が掲げる“誰も置き去りにしない”との理念と響き合う「人間性」が力強く脈打っている。

と語りかける。
 そのうえで、これらを実現する基盤として、具体的に2030年を目標とした「世界市民教育を通じた青年のエンパワーメント」の推進を、世界のあらゆる場所で推進することを提唱する。

 その取り組みを通し、青年たちが、
①悲惨な出来事を繰り返さないため、「歴史の記憶」を胸に共通の意識を養う
②地球は本来、人間が「共に暮らす家」であり、差異による排除を許してはならないことを学ぶ
③政治や経済を“人道的な方向”へと向け、持続可能な未来を切り開くための英知を磨く
――ことを期待したい。

ムハマド・ユヌス博士も署名

 じつは、博士と会長の対談集『人権の世紀へのメッセージ』も、最終章は「平和の文化」の建設を青年に呼びかけるものとなっている。
 不当な迫害を一身に受けながら、非暴力という手段で人権の世紀へ民衆の連帯を築いてきた両者。
 青年をレジリエンス(困難を乗り越える力)の体現者ととらえ、「青年の連帯があるかぎり、いかなる困難があろうとも希望は失われない」という共同声明の精神は、日本も含め各国のSGIが「時代の潮流」へと高めていかなければならないものだろう。
 2018年10月1日、やはりノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス博士が、イタリアSGIのミラノ池田平和文化会館を訪問した。博士はソーシャル・ビジネスという概念の提唱者であり、グラミン銀行の創設者、マイクロクレジットの創始者として、貧困なき世界の実現に尽力し続けている。
 ユヌス博士は、池田会長とエスキベル博士の共同声明に賛同し、記念スピーチをおこなったあと、自らもこの声明に署名をした(動画:SGIイタリア公式サイト)
 2008年に『日蓮大聖人御書全集』のスペイン語版が刊行された際、池田会長は序文を寄せて、こう綴った。

 現代の宗教間の対話において、それぞれの違いは違いとして認め合いつつ、各宗教の洞察と真実を学びあっていけば、人間の幸福のための宗教として、互いに練磨していくことができるに違いない。(『大白蓮華』2011年5月号)

 池田・エスキベルの共同声明は、そのひとつの英知の結晶として、世界を照らしていくことだろう。

リンク:
共同声明「世界の青年へ レジリエンス(困難を乗り越える力)と希望の存在たれ!」(創価学会公式サイトSOKAnet)

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あおやま・しげと●東京都在住。雑誌や新聞紙への寄稿を中心に、ライターとして活動中。著書に『最新版 宗教はだれのものか 世界広布新時代への飛翔』、『宗教は誰のものか』(ともに鳳書院)など。