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出入国管理法改正案——責任ある議論を望む

ライター
松田 明

論戦の場は参議院へ

 11月30日、「労働力調査 平成30年10月分」速報値が発表された。
 就業者数は6725万人で、前年同月に比べ144万人増加。雇用者数は5996万人で、前年同月に比べ119万人増加。いずれも70ヵ月連続の増加である。
 このうち正規の職員・従業員数も前年同月より37万人増加で、47ヵ月連続増加。
 一方、完全失業者数は163万人で、前年同月に比べ18万人減少。101ヵ月連続の減少となった。
 安倍政権が自民党と公明党の安定した連携のもとで、経済政策の着実な成果を上げていることは、ひとまず数字のうえでも明らかである。
 国民の実感が概ねこれを認めていることは、各社の調査で内閣支持率の好転が続いていることにも見て取れるのではないか。
 さて、今国会では外国人材の就労拡大に向けて新たな在留資格を創設する出入国管理法改正案が、大きく注目されている。政府・与党は2019年4月からの制度導入をめざし、12月10日までの会期内に法案を成立させたい構えだ。
 政府・与党が導入を急ぐ背景には、現行の法制度が既に外国人就労の現場の実情に合っていないことへの懸念がある。深刻な人手不足を補うため、違法就労をあっせんするブローカーが暗躍するなどし、技能実習生として来日した外国人が失踪するなどの事案が頻発している。
 11月26日、自民党、公明党の与党は日本維新の会と国会内で協議をおこない、地方の人手不足に配慮した制度の運用確保などにむけた修正で合意した。
 27日の衆議院本会議で、同法案は自民、公明、維新などの賛成多数で可決。議論の舞台を参議院へと移した。

封印させられた「対案」

 じつは、この衆議院での審議の際、国民民主党の内部では独自の「対案」が用意されていた。ところが、対案の提出そのものを拒む立憲民主党などから〝野党の足並みが乱れる〟という理由で、対案提出を阻止されていたのだ。
 28日、立憲民主党が参議院運営委員長の解任決議案を出そうとしたが、国民民主党が反対して見送られた。
 29日の参議院審議で、国民民主党は独自の対案を提出した。野党が望む廃案の実現は現実的ではないと判断したためだ。
 与党側はこれを歓迎したが、〝徹底抗戦〟を見せたい立憲民主党は国民民主党案の審議を拒否。最終的に立憲民主党が審議に応じる姿勢を見せたものの、両党の亀裂が深まる結果となった。

「野党は政策の仕込みが粗い」

 政府与党の提出した法案に対し、野党側が対案を出すことさえ互いに牽制し合って、ひたすら廃案を訴えるという姿は、ここ数年の国会審議で繰り返されてきた。
 野党支持者のなかには「悪法に対しては〝廃案にしろ〟という以外に対案などない」という論理で、これを正当化する声が少なくない。
 ただ、野党が合従連衡を目まぐるしく重ね、それでも支持率が低迷したままの一強多弱が続いている状況下で、こうした構図が固定化されていくことは本当に国民にとって有益なのか。
 民主党政権で官房副長官を務めた松井孝治・慶應義塾大学教授は、読売新聞の連載「政党を問う・野党編」(11月24日付朝刊)で、率直な疑問を呈している。

 政府は財政制約などに苦しみつつも、不十分かもしれないが政策を見直し、更新する努力を行っている。それに対して野党は政策の仕込みが粗すぎる。党首ら幹部の交代のたびに新たな政策を打ち出すのではなく、時間をかけて政策を熟成し、政権を取った時に本当に実現できる政策を作る感覚を磨くべきだ。(同紙・東京版4面)

 松井教授は通商産業省(当時)官僚を経て民主党から出馬した経験もあり、野党が毎回のようにやる「合同ヒアリング」についても手厳しい。

 政策力の向上につながっているのか疑問だ。わざわざ官僚の顔をテレビカメラに映して、罵倒することは恨みを残すだけで、官僚の本音を引き出すことは難しいだろう。官僚から本当に情報を得たいならば、もっと建設的に、水面下で意見聴取すべきだ。(同)

 本来、野党は「安倍政権の打倒」「自公政権の打倒」を叫ぶならば、自分たちはどのような政党の枠組みで新たな政権を樹立し、その際にどのような政策を実施しようとしているのかを国民に明示しなければならない。
 しかし、この数年間、野党はこれらを曖昧にしたまま、ひたすら〝政権と対決する〟というアピールだけに終始してきた。政府や与党の失態を厳しく追及することには執着してきたが、それでも有権者の側に野党に政権運営を任せてみようという空気が生まれる気配はまったくと言っていいほどない。

反対するなら責任ある対応を

 出入国管理法改正案の審議が参議院法務委員会に移った11月29日、公明党の山口代表は党中央幹事会で挨拶し、

 国際社会との共生を踏み出す重要な制度だ。どう課題を克服し、運用を安定的なものにするか議論を深めたい。(公明新聞2019年11月30日付)

と語った。
 立憲民主党や共産党などは、与党の〝強行採決〟というイメージの強調に余念がないが、実際には衆議院でも日本維新の会との協議で一部修正が図られているうえでの可決であり、参議院でも前述のように野党の一部から対案が出された。
 また、衆議院本会議での採決に先立って、大島衆議院議長が同法改正案の成立後、来年4月の施行前に制度設計の詳細を国会に報告させることを与野党に示している。
 どんな制度であれ、多様な意見に照らせばはじめから完全無欠なものなどあり得ず、むしろ問題点を丁寧に議論し、修正をかけ続けながら、よりよいものへ高めつつ運用していくのが本来の姿だ。
 仮に一部の野党があくまでも廃案にすべき〝悪法〟だと考えているのであれば、ただ反対を叫ぶのではなく、自分たちが政権を獲得した暁に、外国人労働者の就労をどのような制度に変更するつもりなのか、国民にきちんと明示する責務があるだろう。

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