第43回「SGIの日」記念提言を読む――民衆の連帯への深い信頼

ライター
青山樹人

世界が注視する提言

 SGI(創価学会インタナショナル)は、今や192ヵ国・地域という世界最大規模の広がりを持つ仏教教団に発展している。
 各国の創価学会の代表が集ってSGIの結成をみたのは、1975年1月26日のことだった。
 池田大作SGI会長は、1983年以来、毎年のこの「SGIの日」に合わせ、世界に向けて記念提言を発表し続けてきた。
 今回の提言は「人権の世紀へ 民衆の大河」と題されたもの。
 世界に蔓延する排他主義、核廃絶、難民・移民問題、国連のSDGs(持続可能な開発目標)などに触れ、これら地球的課題を〝民衆の連帯を大河のように広げて〟いくことで超克していこうと呼びかけている。
 毎年の提言が、国連や各国の大学関係者などに広く読まれ、啓発を与えてきたのには理由がある。
 それは仏法者の智慧の眼(まなこ)から発せられるメッセージでありつつ、単に倫理を語っているのではなく、個別具体的に現実の政策・運動としてどう実現すべきかを丹念に提示しているからだ。
 そこに脈打つ池田会長の視点の深さと、読む者の人間観をも変えていくような力強い励ましには、誰もが啓発を受けるだろう。
 その一端を見るためにも、本稿では今年の提言のなかから、とくに2つの問題提起に着目したいと思う。

人間を見つめるまなざし

 冒頭、会長は本年(2018年)が世界人権宣言の採択70周年を迎えることに言及し、

 地球的な課題に取り組む上で「倫理と政策の融合」を見いだすための鍵となる、一人一人の生命と尊厳に根差した「人権」の視座について論じたい。

とし、次のように続ける。

 第一の柱は、人権の礎が〝同じ苦しみを味わわせない〟との誓いにあることです。

 会長は、国連の初代人権部長として世界人権宣言の制定に人知れず尽力したジョン・ハンフリー博士との出会いに触れ、その原動力に博士自身が味わった悲痛や、ファシズムの抑圧を目撃した体験があったことを述べている。
 人権という、聞き慣れていつつも漠然としがちな言葉が、鮮やかに読む者の視界に像を結んでいくのだ。
 さらに「人権教育の重要性」「人権文化の建設」に言及していくが、ここでも〝他者が抱える心の痛みと真摯に向き合う生き方〟や、差異を超えて〝新しい現実をつくる喜びの共有〟こそが肝となることを、会長は丹念に語るのだ。
 提言に一貫してあるのは、そこにいる人間の心をいかに開き変革していくかという、池田会長の〝一人の人間〟をみつめるまなざしである。
 そして、悲痛を味わった人間がそれを力に変えていけることを確信する、会長の揺るぎない信念なのである。

政策転換の先頭に立て

 さらに提言では、昨年に国連で採択された核兵器禁止条約にも言及する。会長は北朝鮮の核開発などに触れ、

 核兵器の存在があからさまな〝威嚇の手段〟としての様相を再び強めている状況

だと指摘したうえで、「核抑止政策」に潜む魔性を指摘する。
 すなわちそこには、哲学者ハンナ・アーレントが提起した「他者を圧倒する自由意志」――他者の尊厳へのまなざしを欠いた、自分がそうしたいからするという身勝手な自由――が根深くあることを指摘するのだ。

 壊滅的な被害をもたらす核兵器によって安全保障を確保する国家のあり方は、「他者を圧倒する自由意志」の最たるものとは言えないでしょうか。

 そのうえで、日本など多くの核依存国が核兵器禁止条約に参加できていないことを念頭に、2020年のNPT再検討会議に向けて、

 署名や批准が当面困難な場合であっても、宣言や声明という形を通じて各国が実施できる項目からコミットメント(約束)を積み上げていくべきではないでしょうか。

 唯一の戦争被爆国である日本が、次回のNPT再検討会議に向けて核軍縮の機運を高める旗振り役になるとともに、ハイレベル会合を機に核依存国の先頭に立つ形で、核兵器禁止条約への参加を検討する意思表明を行うことを強く望むものです。

と日本政府に対して、まずはできることから着手して、核依存国の〝政策転換の先頭〟に立つことを訴えている。
 さらにICANや平和首長会議など市民社会の連帯を強め、

 核兵器廃絶を求めるグローバルな民意の大きさを可視化していく

ことが、核保有国と核依存国の政策転換を促し、核時代に終止符を打つことにつながるとの確信を綴っている。
 ここでも会長が深く信じているのは〝民衆の力〟なのだ。
 会長は核兵器と核抑止政策の本質的な悪魔性を厳しく指摘し、核兵器廃絶への揺るぎない意志を鮮明にしつつ、現実にどこから手をつけていけば理想に近づくのかを丁寧に論じている。
 核廃絶は人類の急務であり、必ず成し遂げねばならない悲願でもある。
 と同時に、その正義を実現しようとする者が、性急さのあまり攻撃的な非難をすることに高揚感を覚えたり、憎悪や分断にからめとられることがあってはならない。
 それでは結果的に政策転換を遅滞させかねないし、そこには既に魔性に魅入られた姿があるからだ。
 私たちは忍耐強く、差異を超えて民衆の連帯を深め、なによりも自身の人間性と他者への想像力を豊かに育むなかで、「人道の世紀」を大きく開いていきたい。

リンク:
創価学会公式サイトSOKAnet「記念提言のページ」

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あおやま・しげと●東京都在住。雑誌や新聞紙への寄稿を中心に、ライターとして活動中。著書に『最新版 宗教はだれのものか 世界広布新時代への飛翔』、『宗教は誰のものか』(ともに鳳書院)など。