ICANと創価学会――国際パートナーとしての関係をひも解く

ライター
松田 明

授賞式に招かれたSGI

 2017年のノーベル平和賞に、核兵器禁止条約の制定に向けたキャンペーンを展開し続けてきたICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)が選ばれ、現地時間の12月10日、ノルウェーの首都オスロの市庁舎で授賞式がおこなわれた。
 式典には、ノルウェー・ノーベル賞委員会の招聘を受け、ICANの国際パートナーの一員として創価学会インタナショナル(SGI)の代表も列席した(創価学会公式サイト記事)。
 ICANが設立されたのは07年で、その母体となったのは1980年に誕生したIPPNW(核戦争防止国際医師会議)である。IPPNWも85年にやはりノーベル平和賞を受賞している。
 一方、核廃絶に対する創価学会の取り組みは非常に長く、1957年9月8日、戸田城聖・第2代会長が横浜・三ツ沢の地で、核廃絶への取り組みを「第一の遺訓」として青年たちに託したことに淵源を持つ。
 75年には池田会長がニューヨークの国連本部で当時の国連事務総長と会見し、青年部が集めた核廃絶への1千万人の署名を届けた。80年代に入ると、創価学会と広島市、長崎市が主催、国連広報局が協力して、第2回国連軍縮特別総会(82年6月)の開催に合わせて、国連本部で「現代世界の核の脅威展」を開催している。
 この展示は、核軍縮特別総会に集まった世界中の政府関係者やメディアに、核兵器がいかに悲惨で深刻な苦しみを与えるものかを強いリアリティをもって訴えかけた。
 池田SGI会長と共にこの展示の実現に尽力した明石康・国連事務次長(当時)は、

 特別総会での「世界軍縮キャンペーン」採択にも大きな影響を与えたと思っている。(『潮』2010年7月号)

 核廃絶への世界世論を形成する、大きな役割を果たされた。(同)

と語っている。
 同展はその後、冷戦下の北京やモスクワを含む24ヵ国39都市で開催され、のべ170万人の市民が訪れている。
 さらに池田会長は83年1月に「平和と軍縮への新たな提言」を国際社会に発表し、以来、途切れることなく毎年、平和構築への具体的な提言を発し続けてきた。

IPPNWと創価学会

 創価学会は82年に国連広報局のNGOに。SGIとしては83年に国連経済社会理事会のNGOに登録され、池田会長には国連平和賞が授与されている。
 先述したIPPNWも、まさにこうした時期に誕生したわけで、87年には共同創設者のバーナード・ラウン氏、ミハイル・クジン氏が相次いで日本を訪れ、池田大作SGI会長と会見している。
 この87年だけを見ても、ライナス・ポーリング(ノーベル化学賞、平和賞の受賞者)やハンス・ブリックス国際原子力機関(IAEA)事務総長、ソ連のルイシコフ首相、ボロビック・ソ連平和委員会議長、フランスのシラク首相らが次々に池田会長と会見しており、核軍縮・核廃絶という困難な課題に対し、世界が池田会長のリーダーシップに強い関心を寄せていたことがうかがえる。
 IPPNWを母体として2007年にICANが設立されると、設立メンバーの1人で当時の議長だったティルマン・ラフ博士が創価学会本部を訪ね、SGIに国際パートナーに就いてくれるよう要請した。

 ICANを立ち上げた時、SGIと協力したいと考えたのは自然なことでした。多様な人々によるグローバルな連帯と貢献――ICANが目指していたものを、SGIは体現していたからです。(ティルマン・ラフICAN国際運営委員/『聖教新聞』17年12月16日)

「計り知れない役割を担う」

 SGIはこれを快諾し、両者はこの10年間、「核兵器なき世界への連帯――勇気と希望の連帯」展を共同制作して世界81都市を巡回させたほか、広島での「核兵器廃絶のための世界青年サミット」の開催(2015年)など、多くの活動を協力して展開してきた。

 SGIは、私たちICANにとって最も古く、一貫したサポーターの一つです。核兵器の禁止と廃絶を目指す戦いにおいて、計り知れないほどの重要な役割を担ってきました。(ベアトリス・フィンICAN事務局長/聖教新聞17年12月13日)

 2017年11月、ローマ教皇庁が主催した「核兵器のない世界について語るバチカン会議」には、ノーベル平和賞受賞者や国連の軍縮担当上級代表はじめ、この会議開催の協力団体としてSGIも招へいを受け、池田博正SGI副会長らが出席している。
 SGIは今や欧米社会でも最大級の仏教団体に発展しており、各国のSGIにおいても青年が中心となって平和構築へのさまざまな啓発に取り組んできた実績を、国際社会はよく認識しているのだと思う。

保有国と非保有国との接点

 ところでICANがノーベル平和賞に選ばれる理由となった核兵器禁止条約に、唯一の被爆国である日本は、今のところ署名できていない。
 核兵器を直ちに法的に禁じるこの条約については、米中ロなどの核保有国が反対し、現状が「核の傘」の下にある日本や韓国、NATO諸国も参加を見送ったのだった。
 ただ、10月にICANのノーベル賞受賞が決まった時点ではコメントを出さなかった日本政府も、授賞式に合わせて河野外相が祝意の談話(外務省「外務大臣談話」)を発表した。
 菅官房長官も11日午前の記者会見で、

 日本政府のアプローチとは異なるが、核廃絶というゴールは共有している。国際社会の核軍縮、不拡散に向けた認識や機運が高まることは喜ばしい。(朝日新聞デジタル

 政府としては、核兵器国と非核兵器国の間の信頼関係を再構築し、核兵器国もしっかり巻き込む形で現実的で実践的な核軍縮の取り組みを粘り強く進めていきたい。(同)

と述べた。
 ICANがノーベル平和賞を受賞した意義は、核廃絶への国際的な世論を強化するうえで幾重にも大きい。一方で、「核兵器禁止」を訴える非保有国が、「核不拡散」を唱える核保有国と対立を深める構図になることは本末転倒であり、それこそ北朝鮮の核保有への理屈を正当化しかねない。

 核兵器禁止と核不拡散という2つの政策は確かに矛盾します。ですが、そこで双方がいがみ合っていては、核兵器保有を志向する勢力の「思う壺」になりかねません。ここは、日本政府として「理想と現実を併せ呑む」格好で核禁条約を批准する、その上で保有国と非保有国の接点という役割を果たしていくべきだと思います。
 ICANなどもそこにいたる日本政府の難しい検討過程を見守り、即時批准をしないのは悪であるかのような批判は慎む、そのような形でまずは日本政府とICANが信頼関係を醸成していくのはどうでしょうか?(冷泉彰彦氏のコラム「ノーベル平和賞と核廃絶論、核不拡散論の関係」/ニューズウィーク日本版)

公明党の持つポテンシャル

 SGIがICANの重要な国際パートナーであることと、日本において創価学会の支持する公明党が政権与党に参画していることを〝矛盾〟だとして非難あるいは揶揄するような論調が一部にある。
 だが、SGIは今や192ヵ国・地域に広がるグローバルな宗教運動として、国連や他の宗教とも連携しながら地球規模で平和構築への啓蒙と教育に取り組んでいる。
 他方、公明党は日本の政権を担う政党であり、もちろん日本の創価学会員や支持者の期待に応える政治の実現は要請されるが、同時に政治の安定を図り、与党である以上は日本政府の判断との整合性も求められる。
 そこに時として両者の立場の差異が生じることは、当然これからもあり得るだろう。
 日本政府がICANと信頼関係を深め、同じゴールに向けて、揺れ動く国際情勢のなかで賢明に協調していけるためには、公明党が連立政権に参画しSGIがICANの国際パートナーであるという〝ねじれ〟は、むしろ大きなポテンシャルになると筆者は思う。
 公明党は、自らの理念と与えられた立場の狭間で呻吟することも続くと思うが、持ち前の「合意形成」能力を生かし、核兵器廃絶という大きな課題についても忍耐強く積極的に努力を重ねてもらいたい。

 ICANが示した重要な教訓の一つは、幅広い団体が協力することで、より大きな力を発揮できるという事実です。
 一つの組織が、あらゆる国の政府を相手にすることは不可能です。ICANがその任を引き続き果たしていくことを願っています。そのためにもICANは、多様性を持ち、広範な人々が活躍しているSGIの存在を必要としているのです。(ティルマン・ラフICAN国際運営委員/『聖教新聞』17年12月16日)

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