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人間の罪深さと、それ以上の美しさと。――映画『光をくれた人』

ライター
倉木健人

流れ着いた1艘のボート

 オーストラリアの西の果てに浮かぶ絶海の孤島。そこはインド洋と南極海がぶつかる海の難所で、島には航路を照らす灯台だけがある――。
 原作となったM.L.ステッドマンの小説『海を照らす光』(ハヤカワepi文庫/原題『The Light Between Oceans』)は、2012年に米国で出版されるや40以上の言語に翻訳され、世界中でベストセラーとなった。

 第一次世界大戦が終わった1918年、トム・シェアボーンは大勢の敵兵を倒した〝戦争の英雄〟としてオーストラリアに帰還した。戦争で心に深手を負い、家族もいないトムは、世間との関係を断つように、その絶海の無人島での灯台守に応募し試用される。
 3ヵ月後、灯台守の正式契約を結ぶため町に戻ったトムは、イザベルという若い女性と知り合う。彼女もまた、戦争で2人の兄を失っていた。
 やがて、文通を通して互いを思う気持ちを深めた2人は結婚。誰もいない島で、2人だけの幸せな日々が始まる。一度は死んでいたトムの心は、イザベルの愛情によって蘇生していく。
 ところが、イザベルは妊娠した子を2度まで流産して、悲しみに沈んでいく。そこに、ある日、1艘のボートが流れ着いた。乗っていた男性はすでに死んでいたが、女の赤ん坊は生きていた。in_sub03
 すぐに保全局に無電を送ろうとするトムを、イザベルが引き止める。男性の遺体を埋め、ボートを海へ流し、赤ん坊を自分たちの子だと偽って育てることになった2人。
 2年後、娘の洗礼式のために訪れた教会の墓地で、トムは1人の女性の姿を目にする。それは、2年前に夫と娘がボートで海に消えてしまったという女性ハナだった……。

希望を語る現代の〝寓話〟

 本作の見どころは2つ。1つは、言うまでもなくその物語の奥深さだ。
 トムとイザベルは共に「戦争」の犠牲者である。そして、漂流したボートの男性がそのような最期を迎えなければならなかった原因は、敵国ドイツの出身だという理由で迫害されたことだった。100年前の舞台設定は、そのまま今日の世界にある不条理に他ならない。
 仏典に他人の子をさらって食べる鬼子母神の説話がある。流産に苦しんだあげくに思いがけず〝わが子〟を手に入れたイザベルには、もはやその赤ん坊の本当の母親の悲しみが想像できない。
 やがて、思わぬ展開で真相が露見し、娘は実母ハナのもとに取り戻され、トムとイザベルの人生は崩壊していく。
 登場人物の誰一人にも救いがもたらされないかのように見えるのだが、物語はそのようには終わらない。思いもかけない悲劇をもたらしていくのも人間と人間の出会いだとすれば、その一切を転換させていくものもまた、人間と人間の出会いなのである。
 エンドロールを見ながら、あなたはきっと『光をくれた人』という題名の絶妙さに感じ入ることだろう。
 この物語は、憎悪と分断に煽られる21世紀の世界に、ひとつの希望の光を届けてくれる〝寓話〟である。

300以上の灯台をロケハン

 見どころのもう1つは、キャスティングとロケーションだ。
 トム役のマイケル・ファスベンダーは、主演を務めた『SHAME(シェイム)』(スティーヴ・マックイーン監督)でヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞。2014年、米国映画サイトで「世界で最も美しい顔」第1位に選ばれた旬の俳優だ。本作では、強い自制心を持った主人公を、見事に演じ切った。in_sub04
 イザベルには『リリーのすべて』でアカデミー賞助演女優賞に輝き、『ジェイソン・ボーン』でも記憶に新しいアリシア・ヴィキャンデル。ハナには『ナイロビの蜂』でやはりアカデミー賞助演女優賞を受けたレイチェル・ワイズ。
 監督・脚本は、『ブルー・バレンタイン』(2010年)で絶賛を浴びたデレク・シアンフランス。本作はもともとスピルバーグ率いるドリームワークスが映画化権を持っていたのだが、シアンフランスの熱意と優れた脚本に、その権利を託することにした。
 灯台の立つ絶海の孤島は、オーストラリアとニュージーランドの300以上の灯台をロケハンして、クック海峡に立つ灯台を選んだという。
 監督は、携帯電話の電波も届かないこの場所に、スタッフとキャストで実際に共同生活をしながら撮影をおこなった。
 美しくも厳しい大自然の中で揺れ動いていく人間の運命。そして、運命に翻弄されたように見えても、人はそこから光を見出し、誰かに光を贈れる存在になれるのだということを、映画館で確かめてほしい。
 

映画『光をくれた人』(原題:The Light Between Oceans)

2017年5月26日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国公開!

ラブストーリーの傑作『ブルーバレンタイン』デレク・シアンフランス監督が自ら望んだベストセラー小説を映画化。
マイケル・ファスベンダー×アリシア・ヴィキャンデル――ハリウッドが今最も期待する最高のキャストで贈る “演技を越えた”愛の物語。

監督:デレク・シアンフランス
製作:デビッド・ハイマン、ジェフリー・クリフォード
製作総指揮トム・カーノウスキー、ロージー・アリソン

原作者:M.L. Stedman
原作:『海を照らす光』

出演:マイケル・ファスベンダートム・シェアボーン、アリシア・ビカンダーイザベル、レイチェル・ワイズハナ、ブライアン・ブラウンセプティマス・ポッツ、ジャック・トンプソンラルフ・アディコット

2016年|イギリス・ニュージーランド・アメリカ合作|133分
配給:ファントム・フィルム

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くらき・けんと●1963年生まれ。編集プロダクションで主に舞台・映画関係の記事づくりにたずさわる。幾多の世界的映画監督にインタビューを重ねてきた経験があり、WEB第三文明で映画評を不定期に掲載予定。趣味は旅行と料理。