めざすべき政権像を示せないまま「安倍政権打倒」を叫ぶ無責任――民進党の迷走(下)

ライター 
松田 明

手段と目的を履き違えた政党

 政治は、国民の信頼があってはじめて成り立つ。我々はかつて、国民の信頼に十分応えることができなかった。

 これは民進党の「結党宣言」の一文である。
 民進党は、民主党に維新の党や、維新の党から分裂したばかりだった改革結集の会などが合流して2016年3月に結党された。
 維新の党そのものが日本維新の会の分派や、みんなの党の分派の結いの党からなる政党で、くっついては罵り合って別れるという抗争を繰り返してきた者たちだ。
 他方の民主党も前回述べたように、政権を獲った瞬間から党内の対立を激化させ、党代表を務めた人間を2人も追い出す泥沼の権力闘争に明け暮れてきた。
 本来は〝実現したい政治〟が目的にあり、「政権獲得」はその手段のはず。この点、民主党政権下で野党に転じた自民党と公明党が、動ずることなく政党を維持し、3年余の後に再び連立政権を安定して運営できている姿は、両党の成熟度を物語っている。
 現在、民進党となっている勢力は、手段である「政権獲得」が目的化し、〝実現したい政治〟が互いに共有できない。
 野党再編といえば聞こえはいいが、要するに多様な意見や価値観を尊重できない未成熟な政治家たちが、「政権獲得」だけをエネルギーに、国民不在の合従連衡を繰り返しているに過ぎないのだ。
 先の結党宣言にあったように、国民は彼らを信頼していない。民進党の支持率が、結党のご祝儀相場さえなく、直近の各社世論調査でも伸びていないのは、その不信感の証左であろう。

なりふりかまわぬ共産党依存

 5月17日、衆議院文科委の理事懇談会は、不登校の子どもたちがフリースクールなど学校以外の場で教育を受けることを支援する法案について、先送りを決めた。
 この法案は、さまざまな事情で学校に行けない子どもたちの教育を支援するために、超党派の議員立法として1年以上かけて審議を尽くし、難航の末にいよいよ成立するところだった。

 衆院文科委の理事によると、参院の民進党が一転して衆院側に全会一致での成立を求めた。夏の参院選をにらみ、野党共闘の足並みをそろえるため、共産・社民両党が賛成しない同法案の成立は先送りした方が得策だと判断したという。(朝日新聞デジタル5月18日)

 なんでも反対の共産党との選挙協力を優先させるため、参院民進党が〝一転して〟先送りを決めたのだ。犠牲になったのは、しんどい状況で生きている子どもたちである。
 5月20日には、民進党は参院選香川選挙区(定数1)で推薦を決めていた候補者の取り下げ、野党候補が共産党公認候補に一本化されることになった。
 ところが翌日、香川県選出の民進党衆議院・玉木雄一郎議員が

 なお「一本化」と報じられていますが、共産党候補を推薦するようなことはありません。

とツイッターで本音を吐露し、騒動になった。
 31日には佐賀選挙区(定数1)で共産党が予定していた候補を取り下げ、全国32の参院1人区すべてで4野党の統一候補が立つことになった。
 もともと政治ウイング的には自民党とかぶる議員の少なくない民主党が、さらにはるか右側にいた維新系の議員たちと合流し、今度は共産党と「統一候補」を立てる。
 しかも、民進党と共産党では、消費税や外交・安全保障など基本政策があまりにも異なり、岡田代表は「共産党との連立政権はあり得ない」と3月30日のラジオ番組で述べたばかりだ。
 労組以外に支持基盤を作ってこなかった民進党は、風の吹かない今、連立政権を組むことなどあり得ない共産党に頼らなければ選挙を戦えない状況に陥っているのだが、つじつまの合わない共産党との蜜月は党内にも支持層にも深刻な亀裂を広げつつある。

繰り返される「パフォーマンス」

 民進党は今も、「アベノミクス失敗」を連呼するだけで、それに代わる具体的な経済政策も出せないままだ。批判はするが、実現性のある対案を何も出せない。
 公明党の伊佐進一衆議院議員は6月1日の自身のツイッターで、

 本日、国会が閉会いたしましたので言わせて頂きます。
 軽減税率の対案として、民主党(当時)が2月に提出した「給付付き税額控除法案」。
 会期中、結局、彼らは一度も審議を求めてきませんでした。提出しただけの、形だけのパフォーマンスです。

 また、「民共」の唯一の共通点、「戦争法案」廃止。
 廃止法案を提出したものの、民進は審議を求めず、共産党の2回の審議要請には1回同調したのみ。
 結局、民進に本気で審議しようという姿勢はありません。
 法案提出は、「民共」を維持するためのお得意のパフォーマンスだと実感しました。

と痛烈に民進党の実態を批判している。
 互いに話し合うことができずに分派を繰り返してきた者たちが、自分たちの政権像も示せずに「安倍政権打倒」を叫ぶ。むしろ共産党との統一候補を出す時点で、すでに民進党は日本の政権を担う意思を放棄したというほかない。
 迷走を深める民進党。参院選が終われば、また内輪で罵り合って四分五裂を繰り返すのだろうか。

「民進党の迷走」シリーズ(全2回):
民進党の迷走(上)――空疎なパフォーマンスに終わった内閣不信任案提出