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日本とフィリピンの「共生の世紀」を見つめて――書評『マリンロードの曙』

ライター
松田 明

両親を日本軍に惨殺されたアブエバ氏

 ホセ・V・アブエバ氏は、ニューヨーク市立大学、イェール大学等の客員教授を経て、東京の国連大学本部に勤務。帰国後は国立フィリピン大学総長として手腕を振るい、退官してカラヤアン大学を創立、初代学長に就任した。同国の憲法改正諮問委員会委員長を務めるなど、文字どおりフィリピンを代表する知性の1人である。
 フィリピンは第二次世界大戦における激戦地の1つで、日本人戦没者の数は推定52万人。日本国外では最大の数である。そしてフィリピン人の犠牲者はさらに多い100万人近くと推計されていて、当時の人口に占める割合でも日本を上回っている。
 池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長とアブエバ氏は、1990年に聖教新聞社(東京・信濃町)での初会談以来、親交を深めてきた。池田会長は翌91年にフィリピンを訪問。コラソン・C・アキノ大統領と会見し、フィリピン大学で講演をおこなった。93年、フィリピン大学にオープンした国際教育交流施設「バライ・カリナウ(平和の家)」は、「イケダ・ホール」と命名されている。
 本書は、月刊誌『第三文明』に連載された両者の対談をまとめたもの。
 アブエバ氏の両親は、戦時中に日本軍に連行され、拷問の末に処刑された。日本人である池田会長と対談集を出すことについて、氏は率直に心情を述べている。

 私と池田会長は、同じ1928年生まれ――つまり〝辰年〟の生まれでしたね。
 私は「過去」を、そこから学んだ重要な教訓をもって振り返り、この語らいを通して「現在」を、さらに「未来」を見つめていきたいと思っております。
 私にとっては、池田会長とお会いし、友情を結んできたこと自体が、両国の和解を象徴するものです。(『マリンロードの曙』

いよいよ関係の重要性が増す〝隣人〟

 本書は4つの章からなる。第1章は「戦争の世紀から平和の世紀へ」と題して、戦争によって肉親を失った両者が、それぞれの生い立ちや来し方を振り返りつつ、平和建設に邁進してきた心情を綴る。
 第2章は「フィリピンの歴史・風土・文化」。フィリピンは日本の隣国であり、歴史的にも深い関係にありながら、日本ではほとんどフィリピンについてよく知られていないと思う。フィリピン人の特質ともいえるホスピタリティや、同国でもっとも尊敬されている建国の英雄ホセ・リサールをめぐる対話は、この国に脈打つ精神性を知るうえで貴重である。また、アブエバ氏自身も熱心なカソリックであり、本書は仏教者とキリスト教徒の対話として、平和創造への宗教の役割を論じ合っている。
 第3章は「理想の社会を創る力」。フィリピンはマルコス独裁体制(1972~86年)を非暴力の民衆革命で打倒し民主化を果たしている。対談では、「ノンキリング(不殺生)社会」を実現する方途が、現実的課題に即して語り合われる。また、現下の日本とフィリピンにとって焦眉の課題であるスプラトリー諸島(南沙諸島)問題にも触れ、「民衆の幸福を実現する政治」の重要性に言及している。
 第4章は「未来を決する教育の使命」。両者は共に大学創立者として、教育に人生を懸けてきた。グローバル化し、価値観が多様化した現代にあって、平和を創出していくためにいかなる教育が求められるか、ここでも2人の語らいはきわめて実践的であり具体的である。
 さらに、それぞれの国は地震や津波、台風といった自然災害の猛威に直面してきたことから、「防災・減災」についても論じ合っている。
 池田SGI会長については、対談した世界の知性たちが口を揃えて「対話の名手」と讃えるが、会長はこの対談でも一貫して〝フィリピンから学ぶ〟という姿勢を崩さない。
 国際情勢の変化のなかで、日本にとってフィリピンはますます重要な〝隣人〟となりつつある。私たちも本書を通し、この隣人から「寛容」と「思いやりの心」を学んでいきたい。

9784476050530
『マリンロードの曙』
ホセ・V・アブエバ/池田大作

価格 1,700円+税/第三文明社/2015年6月7日発売
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