選挙最終盤――「自民圧勝」の予測をどう考えるか

ライター
青山樹人

各メディアが出した衝撃の予測

 第47回衆議院選挙の投票日(12月14日)の1週間前、やや衝撃的な「情勢予測」が発表された。
 ひとつは12月5日に「Yahoo! JAPAN ビッグデータレポート」チームがはじき出した議席数予測
 前回2013年の参院選で92%の的中率だったという同チームが今回発表した結果は、投票率が50%台前半の場合も60%前後の場合も、いずれも自民党が300議席を超えるというものだった。あまりの圧勝予測に、野党関係者からは「有権者の投票意欲を削ごうとする政権の謀略だ」という批判が噴出したほどだ。
 だが、2日後の7日に毎日新聞が発表した世論調査の結果も、「自民は単独で3分の2超えも視野に入る」とするものだった。他の新聞社、テレビ局の予測も、ほぼ揃って「自民圧勝」の予測を報じている。
 たしかに、最大野党の民主党の公認候補者数は、衆議院定数の過半数238を大きく下回る198人に留まっている。同党の低調ぶりを反映した形だ。枝野幹事長は公示日の時点で「次の選挙の時には政権の選択肢として認めていただけるような議席を獲得したい」と述べ、早々に今回は政権交代をめざさない宣言をした。
 野党間の協力もチグハグで、小選挙区で自民と共産の候補者しかいない地域が25選挙区にものぼっている。これでは「自民圧勝」予測もむべなるかなというところだ。
 ところで、〝投票率が下がると組織政党に有利〟という言説に対し、政治学者の菅原琢氏が「投票率は選挙結果を左右しない」(「THE PAGE」掲載)という見解を発表して注目されている。
 菅原氏は、投票率の高かった2009年選挙で自民が大敗していることなどを挙げ、

 その党が負けたのは投票率が低かったためではなく、多くの有権者を投票所に向かわせて、自党に投票させることができなかったためである。棄権者が投票に行けば自分の党に入れるはずというのは、責任逃れのための誇大妄想でしかない。投票率は選挙結果を左右するものではなく、選挙結果そのものなのだと、考え方を改めたほうがよい。(「投票率は選挙結果を左右しない」)

と厳しく論じている。
 リベラルな論調の東京新聞も、過去の師走選挙を通して、投票率低下は必ずしも自民有利にはたらいていない事実を記事にしている。(東京新聞2014年11月25日夕刊
 投票率が下がったことで、投票に行かなかった人々が、行ってくれさえすれば自党に投じていたはずというのは、たしかに思い上がった負け惜しみであろう。

与党内のパワーバランスの行方

 野党が低迷し、自民党が圧勝といわれるこの選挙で、注目されるのは連立与党を組む公明党の情勢だ。
 たとえば自民党が圧勝した2005年の郵政解散では、自民党が公示前より84議席増やしたにもかかわらず公明党は3議席減となった。自公連立におおむね肯定的な層が自民党に傾くと、そのまま公明票は削られてしまう。自民党有利の情勢は必ずしもパートナーである公明党を利することにならない。
 では、なぜ今回、公明党の獲得議席が注視されるのか。仮に自民が圧勝すれば引き続き自公連立政権が誕生すると思われるが、派閥の力が弱まり「安倍一強」といわれるほど安倍執行部にパワーが集中している自民党内では、ハト派がほとんど影響力を持てていない。
 毎日新聞社特別顧問の松田喬和氏は、

 実質的には、辛くも公明党が自民党ハト派に代わって与党内のチェック・アンド・バランスを担ってきたともいえるだろう。(『潮』2015年1月号

と述べている。
 消費税率アップにともなう「軽減税率」導入に自民党を合意させられるかどうか。スタートする安全保障法制の審議で7月の閣議決定に示された「新3要件」を政府に守らせることができるのかどうか。戦後70年となる2015年に中国や韓国との関係を好転させるためには首相の靖国参拝中止が絶対条件になるだろうが、ここで判断を誤ると一気に日本は〝いつか来た道〟に転落しかねない。非常に困難な山場である。
 安倍自民党にとって野党の存在がさほど痛くも痒くもない選挙結果になるのであれば、「与党内野党」としての公明党がどれだけ政権内で重みを持てるかが、公明党の損得というよりも日本全体の舵とりに、否応なしに大きく反映してくる。

問われるのはチームプレーの能力

 ある意味、政治はスポーツと似た面がある。
 勢いだけで理念や哲学がないというのでは話にならない。しかし、どんなに美辞麗句を並べてみたところで、それを自分自身が体現して、人々の支持を得て、なおかつ対戦相手とのし烈な戦いの中で勝ってみせる実力がなければ何の意味もない。政治はシビアな権力闘争の世界なのだ。
 そして政治こそチームプレーの最たるものである。
 駆け引きは当然あるとして、厄介な相手やライバルとも、議論を積み重ね、信頼と合意を形成していく能力があるかどうか。これが一番重要だといってもいいだろう。
 外野席から野次を飛ばし「何でも反対」を叫ぶのは簡単だが、どの政党であれ、本来、国民有権者から託されているのは、そんなことではない。
 多様な意見の複雑な利害を調整しながら、現実をよりよい方向に進めていく困難な仕事なのだ。


あおやま・しげと●東京都在住。雑誌や新聞紙への寄稿を中心に、ライターとして活動中。著書に『宗教は誰のものか』(鳳書院)など。