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仏『ル・モンド』の月刊誌がフランスの創価学会のルポを掲載――その意義と背景

フリーライター
前原政之

フランスの創価学会を正視眼で評価したルポ

『ル・モンド』といえば、フランスを代表するクオリティーペーパー(高級紙)であり、その報道姿勢は国際的にも評価が高い。
『ル・モンド』は、本紙(日刊)を補完する意味合いの月刊誌をいくつかもっている。そのうちの一つで、宗教をテーマとした月刊誌『Le Monde DES RELIGIONS』(ル・モンド・デ・レリジョン=宗教の世界)が、2011年9/10月合併号で、フランス創価運動体(聞きなれない表現だが、現地ではこう呼称する。以下「運動体」という)のルポルタージュをカラー6ページにわたって掲載した。幅広い分野で活躍するジャーナリスト、マチュー・メジュヴァン氏の手になるものである。

「創価学会、自己の内なるブッダ」と題されたルポは、パリ郊外ソー市にある運動体の会館での御本尊授与式の模様から始まる。そして、その日入会したアリーヌという女性の歓喜の表情が紹介される。
 アリーヌは友人に誘われ、唱題の実践を3ヵ月つづけてみた。その間、自分に明らかなよい変化が生じた。唱題によって「決断力が強まり、自分自身と調和がとれるようになった」と実感したのだという。そのことで入会を決意した彼女は、御本尊を授与されたときの気持ちを「人生に対する私の見方が変わった」と表現している。
 記事はそのように運動体の活動に密着し、メンバーの素顔を紹介したうえで、後半では創価学会の歴史に迫っていく。しかも、「創価学会の創立は1930年代にさかのぼるが、運動体のルーツを理解するためには、日本の封建時代13世紀に戻らねばならない」として、日蓮大聖人の生涯や日蓮仏法の特徴までが解説され、そこから創価学会の核心に迫る本格的な内容となっている。日蓮仏法と『法華経』の関係や、牧口常三郎初代会長の『価値論』などについても簡にして要を得た説明がなされ、書き手の深い理解に感心させられる。
 例として、創価学会と日蓮正宗の訣別を説明した一節を引いてみよう。

「40年に渡る忠誠を尽くした後、創価学会は日蓮正宗と絶縁した。この分裂は、日蓮大聖人の仏法の実践自体の捉え方に関する本質的な不一致によって説明される。創価学会のプラグマティズム、およびその在家による現代世界を中心に捉える方向性は、日蓮正宗の聖職者集団による教条主義的宗教観とはもはや相容れることはできなくなったからである。今日、創価学会の信徒たちは、この分離を功徳と捉えており、キリスト教信者間のプロテスタントによる改革に比している」

 さすがは『ル・モンド』というべきか、事実関係の羅列にとどまらず、ことの本質にまで迫った解説になっているといえよう。仏メディア界の「横綱」ともいうべき『ル・モンド』が、このように運動体を正視眼で評価し、好意的に取り上げたのは画期的だ。というのも、フランスのメディアではこれまで、一部週刊誌や大衆紙などによって、創価学会について偏った批判・中傷がくり返されてきたからである。

創価学会が「セクト」扱いされた背景とは?

 創価学会がフランスで活動を開始したのは1960年代初頭だが、創価学会が社会的に注目を浴びた契機は、1983年、フランス国会に提出された「アラン・ヴィヴィアン報告書」にある。
 この報告書は、当時のピエール・モロワ首相の命を受け、フランス下院議員アラン・ヴィヴィアンが作成したもの。フランスで活動する「セクト」的宗教団体についてまとめた内容だった。
「セクト」は原義的には「宗派」という意味のフランス語だが、いまでは英語でいう「カルト」――「いかがわしく反社会的な宗教団体」を意味する言葉となっている。
 そして、このヴィヴィアン報告書の中に、ほかの多くの宗教団体とともに創価学会もリストアップされていた。それ以来、メディアでも創価学会を中傷する記事が出るようになったのである。
 だが、報告書の創価学会についての記述は、現地組織を脱会した一人の人物の言葉をうのみにしたものにすぎなかった。その人物は脱会後、実態のない宗教団体の会長を名乗り、現地組織に悪意と捏造に満ちた書簡を送りつけていた。
 その書簡を、ヴィヴィアン報告書は慎重な調査もせずに掲載していた(そのことは、報告書を根拠として創価学会の中傷記事を載せた週刊誌が裁かれた裁判で明らかになった)のである。

 そして、報告書が創価学会をセクト扱いした背景には、フランスという国の宗教に対する特異な姿勢がある。
 フランスは、海外から入ってくる新宗教全般に対して非常に厳しい認識をもっている国だ。また、極端に厳格な政教分離政策をとってきた国でもある。そこには、フランスの政教分離が、教会権力との長い闘いのすえ勝ち取ったものだという歴史的要因がある。
 フランスではつい最近も、イスラム教徒の女性が全身を覆う「ブルカ」などの衣装を公共の場で身につけることを禁ずる法律が施行され、「宗教弾圧」だとして国際的に非難を浴びた。しかし、多くのフランス人から見れば、「公の場から宗教的なものを徹底して排除するのは当然」という感覚なのだろう。

創価学会に対する認識が大きく変化

 今回の『Le Monde DES RELIGIONS』のルポにも、創価学会が過去にセクト扱いされた背景とその後の変化を解説したくだりがある。
 フランス政府では、セクト対策のために関係省庁を横断する首相直属の「ミビリュード」(MIVILUDES=「セクト逸脱行為監視取り締まり関係省庁委員会」を意味するフランス語を略したもの)という組織がもうけられている。このミビリュードのジョルジュ・フネック会長の、次のような言葉が記事中に紹介されている。

「ここ5年以上にわたり、創価学会に関して、我々はセクト逸脱行為の通報を一切受けていない。運動体は礼拝、文化、商業活動を区別し、フランスにおいてはまったく問題を提起しない」

 フランスにおいて、創価学会に対する認識がよい方向に大きく変わってきたのだ。そうした変化の象徴が、『Le Monde DES RELIGIONS』のルポだったのである。

<月刊誌『第三文明』2012年1月号より転載>


まえはら・まさゆき●1964年、栃木県生まれ。1年のみの編集プロダクション勤務を経て、87年、23歳でフリーに。著書に、『池田大作 行動と軌跡』(中央公論新社)、『池田大作 20の視点――平和・文化・教育の大道』(第三文明社)、『平和への道――池田大作物語』(金の星社)、『ガンディー伝――偉大なる魂・非暴力の戦士』(第三文明社)などがある。mm(ミリメートル)