社会にとても関心のある〝社会不適合者〟

【ファイル2】 大学院生/飲食店経営 小嶋秀治(23歳)

勉強は自分でするもの

kojima001――小嶋さんは高校に行かなかったみたいですが、それはどうしてなのですか?

 私立の中学校に通っていたので、高校に進もうと思えば、そのままエスカレーター式に進学できました。でも、高校って結局は大学に進むための勉強をするところじゃないですか。中学校の頃に、そのことに虚しさを覚えたんです。
 だから、中学3年生で一旦学校での勉強からは手を引こうと思いました。やりたい勉強は自分でした方が効率が良いし、大学に行きたいと思えば、高卒認定を受ければいいわけですからね。

――みんなが高校生をやっている3年間は何をしていたんですか?

 自分や社会のことを見つめ直していましたね。具体的には、小さい頃からヴァイオリンを習っていたので、プロの奏者から個人レッスンを受けたり、自ら買って出てコンサートに出演したり、実家の日本料理屋を手伝ったり、あとは、関心がある本を読んだりしてました。
 大学は音大に進もうと思っていたので、高卒認定の試験も受けましたよ。だから、みんなが高校2年生をやっている頃には、僕は高卒の資格を持っていたんです。

――どうして音大に行かなかったんですか?

 音大に行った先輩たちに話を聞くと、「大学を卒業してからプロとしてやっていくのはかなり厳しい」と言われたんですよ。
 あと、当時ある無料のコンサートで演奏をした時に、ふと最前列のお客さんを見ると下を向いて涙を流していたんです。それで、終わってから「感動した」「ありがとう」なんて声をかけてくれました。
 その時に、この人たちのように、高い入場料を払ってまではコンサートに行かないけれど、クラシックの音楽は聞きたいと思っている人が、世の中にはたくさんいるんじゃないかと思ったんです。その人たちに無償で音楽を届けたいなって。それで、音大に入ってプロを目指すんじゃなくて、アマチュアでやり続けようと思ったんです。

「司法試験の勉強」に興味があった

――大学では法学部に入って司法試験の勉強をしていたそうですね。

 大学というのはある意味では強制的に勉強をしないといけないところなので、本来なら自分が興味や関心を持たないであろうことをあえて選ぼうと思ったんです。
 でも、やり始めてみると、これはしっかり取り組んでいく価値がある学問だなと思いました。純粋に楽しかったということもあります。
 僕の通った大学には、国家試験研究室という国家試験を受験する学生の集まりがありました。とりあえず顔を出してみるかと思って、そこで勉強を始めたんです。
 でも、僕は最終的な職業として弁護士を目指そうとは思ってなかったんですよ。それは今も変わりません。ただ純粋に司法試験の勉強に興味があったんです。

――じゃあ、将来は何になりたいと思っていたんですか?

 あえて言葉にするなら、社会起業家ですかね。大学生になった頃は、官僚なんかもいいなと思っていました。とにかく、私益ではなく公益のために職能にとらわれず仕事がしたかったんです。
 起業家かなと思ったのは、高校に行かなかった時期に、音楽を必要としている人はたくさんいるのに、音大出身者に仕事がないという現実を目の当たりにして、自分に何かできないかと思ったのがきっかけです。

――ということは、就職活動はまったく考えなかったんですか?

 就活をするつもりはまったくありませんでした。でも、就活自体にはとても興味があったので、リクルート・スーツを着て、就活生に紛れ込んで企業の説明会なんかに行ったりしてましたね。情報収集もかなりやりましたよ。社会に対する関心の一環として。

若いうちに実験的に起業をしておきたかった

――どうしてレストランを経営しようと思ったのですか?

 とりあえず若いうちに実験的に起業しておくのは面白いんじゃないかと思ったんです。起業というものを知るには、実際にやってみるのが一番早いだろうと。
 あと、前々から大学の近くにコミュニティ・スペースを作りたいと思っていたということも理由の1つです。

――周囲からの反対はなかったんですか?

 なかったですね。みんな僕が変わっているということを知ってくれてましたから(笑)。

――法科大学院に進学しようと思ったのは、どうしてですか?

 開業の準備で金融機関の人と話をしていると、社会的な信用って絶対的に必要だなって実感したんです。信用っていうのは、つまり肩書と経済力ですよね。弁護士ってその点では非常に優れた職業だと思ったんですよ。
 だから、ひとまずキャリア・パスというか、今後さらに自由に仕事をしていくための足かけとして弁護士の資格は取ろうと思ったんです。

――今、収入はどうなっているんですか?

 店の売上から、生活をするための最低限の収入だけを取っています。何もお金儲けがしたくてこの店を始めたわけではないので、ひとまずは生活費と大学院の授業料を店で稼ぐことができればと思っています。
 ただ、やってみてわかったのですが、飲食業って天候とかにとても左右されるんですよ。だから、3日間雨が降り続けて、お客さんの入りが悪かったりすると、ものすごく不安になります。勉強を続けるためにバイトをしなきゃならないんじゃないかって(笑)。

――これから先の人生を、どのように展開していくつもりですか?

 3年後に司法試験があります。ひとまず、この1、2年のうちに店を軌道に乗せて、少なくとも1年間は司法試験の勉強に集中しようと思っています。
 将来のことはまだわかりませんが、公益のための起業をしたいという気持ちはまったく揺らぎません。ただ、試験をパスしたら、一旦はどこかの弁護士事務所や一般の企業に入ったりということも選択肢の1つとして考えています。それもこれも、将来的に役立つ何らかのスキルを身につけたいと思うからです。
 これまで通り、社会にとても関心のある“社会不適合者”として、何らかの事業ができるように頑張ります。
(聞き手:フリーライター 大森貴久)

小嶋秀治●1991年、兵庫県生まれ。幼少期よりヴァイオリンを始め、これまでに様々なコンサートの企画・運営に携わる。2014年3月にダイニング・キッチン千石を東京・八王子にオープン。現在は、都内の私立大学の大学院法務研究科に籍を置き、司法試験のための勉強と店の経営を両立している。音大生・芸大生を支援するための組織NeighborArtsの共同代表としても活動中。

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