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スリープ・マネジメントで快適な眠りを!

作業療法士
菅原洋平

「ストレス社会」といわれて久しい昨今。睡眠の悩みを抱える人は多いようだ。いかにして快適な眠りを得て充実した日々を過ごすか。睡眠管理をテーマに企業研修を行う菅原洋平氏に話を聞いた。

睡眠には個人差がある

――読者から「加齢とともに眠りが浅くなった」「日ごろ◯◯時間しか寝ていないが大丈夫か」との声が寄せられています。

 遺伝子によって人間の身体能力が異なるように、睡眠にも個人差がありますし、環境によっても左右されます。たとえば日照時間です。人は朝になると目覚め、夜になると眠ろうとします。太陽の動きに影響を受けているためです。実際、緯度の関係から北海道でよく実験が行われますが、大学生の起床時間の平均値を調べると夏と冬で2時間の差が出ています。
 また、年齢によっても変わります。実は、人間の脳は睡眠中に記憶を定着させる作業を行っています。子どもには未経験のことがたくさんありますが、大人になればなるほど経験則が積み上がってきます。つまり、年齢とともに記憶整理に多くの時間を費やす必要がなくなるので、自然に長い睡眠時間は必要なくなるのです。春夏秋冬、何歳になっても、同じ時間だけ眠ろうとすること自体が適切ではないのです。
 臨床的見地から考える適切な睡眠時間の物差しは、「起床から4時間後」に眠気やだるさがないか、また頭がボーッとしていないかどうかです。人間の脳波を調べると、起床して4時間後が最も活発になっています。
 逆によく眠れていない人の脳波を調べると、この時間帯に振幅のゆっくりした睡眠の脳波が混入しています。眠りの絶対量が足りないので、昼間の睡眠で補おうとしているのです。起床4時間後のコンディションがよいのであれば、適切な睡眠時間を確保できていると考えてよいでしょう。

――入眠しやすくなるよう、ベッドの中に音楽CDや本などの快眠グッズを持ち込んだのに、かえって眠れなくなったという声を聞きます。

 不眠の悩みを抱えた方にまずお伝えしているのは、「眠るエリアを特定しましょう」ということです。人間の脳は習慣づけによって作業を最適化しようとします。
 たとえば机で本を読む習慣があれば、イスに座った瞬間に文字を読む言語野が働き始めます。よって、ベッドの中に本やスマートフォン(スマホ)などを持ち込んでいると、やがてベッドが眠る場所ではなく、何かの作業をする場所に変わってしまうのです。もしスマホでメールを打ちたいのであれば、布団から出て別の場所で行うべきです。
 もちろん居住環境や勤務形態の違いから、十分な眠りのスペースを確保できない場合もあるかと思います。その場合は、自分でエリアを区切って「スマホや本はこの(眠るエリアの)外側に置く」と意識付けするだけでも違ってきます。

快適な眠りを得るために

――朝の作業効率を高めようと、高カロリーな重たい朝食をたくさん取り、かえって猛烈な眠気に襲われることがあるようです。

 毎日の朝食をしっかり食べるということはとても大切です。しかし、ただ食べればよいというのではありません。
 たとえば体を動かすエネルギーとなる炭水化物は必要ですが、大量に取り過ぎると糖分を分解するインシュリンが過剰に分泌されて低血糖になります。その結果、眠くなってぼんやりとしてしまうのです。低血糖による眠気は、通常のものとは異なり、体がヘナヘナと脱力するような眠気です。体に力が入らないため作業効率も下がってしまうのです。
 対処法としては、食べる順番を変えるだけでも効果があります。人は朝目覚めてはじめて口にするもののインパクトが大きいため、ご飯などの炭水化物の前に野菜から食べはじめるとか、みそ汁から手をつけるなど食べる順番を変えるだけでも低血糖を防ぐことができるのです。
 またこの時期(春から夏の時期)なら、起床してすぐ冷たい水やお茶を口にするのではなく、まずは常温や温かいものを飲んで内臓の温度をつかさどる「深部体温」を引き上げ、体を仕事モードに切り替えていくことも大切でしよう。

――ぐっすり眠ろうと寝酒を飲んだのに、途中で目が覚めてしまって困る場合もあるようです。

 アルコールは睡眠と覚醒が交互に訪れる不思議な物質です。お酒の飲み始めは誰もが陽気になるのに、しばらくすると疲れが出てきてだんだん眠くなる。そしてサッと眠ったはずなのに3時間ほどで目覚めてしまい、今度は逆に眠れなくなる。アルコールには眠気を催す作用がありますが、長続きはしません。
 またアルコールには、体の水分を外に出そうとする利尿作用があるため、お手洗いに立とうと目覚めることが多くなります。さらに過剰な脱水によって血流不足も起こり、頭痛や吐き気にも襲われてしまう。その上、アルコールに頼って眠るようになるとお酒の量も増えはじめ、健康を害してしまう場合もあるでしょう。
 お酒は楽しむために飲むものであって、眠るために飲むものではないのです。もし仕事上のお付き合いなどでお酒を飲むのであれば、冷水も一緒に飲んで脱水を防ぐとよいでしょう。冷水には腸の反射によって吐き気を防ぐ効果もあります。

――不眠のつらさから、睡眠薬を服用することはどうでしょうか。

 睡眠薬は入眠を促しますが、深い眠りは得られません。不眠を根本的に解決していないため、自然に服用する量も増えていきます。
 お酒、たばこ、睡眠薬などさまざまな依存症の治療ではじめに申し上げるのは、「安易に使いはじめると自らの意志の力ではやめられなくなる」ということです。とりわけ睡眠薬の服用は、途中でやめてしまうと「離脱性不眠」という症状が起こって、かえって不眠がひどくなります。体が今の状況を維持しようと反発を示す「ホメオスタシス」によるものです。
 眠れない人ほど一足飛びに自分自身を変えようと思いがちですが、睡眠薬をやめたいと思ったら、医師の了承を得たうえで、徐々に服用量を減らしていけばよいのです。
 それまで2錠服用しているなら、はじめの2週間は1.75錠に。次の2週間は1.5錠に減らし、さらに次の2週間は1.25錠に減らしてみる。ゆっくりとしたペースで服用する量を減らし、「睡眠薬を使わなくても眠れる!」という成功体験を増やしていくのです。

日々の積み重ねも大事

――シフト勤務など、生活が不規則な人びとが質の高い眠りを確保する上で必要な心がけはありますか。

 まずご自分の睡眠に関して正確な記録を取ることです。企業研修を行っていると、参加者から「今週は一睡もしていません!」と相談されることがあります。しかしほとんどの場、ちゃんと眠っています(笑)。あいまいな記憶に基づいて自分が眠れていないと思い込んでしまうと、それが自己暗示になってストレスを感じ、より一層睡眠時間が減っていくことになりかねません。
 正確な記録を取り続けていれば、自分が何時間眠れているのかがわかるのと同時に、日々の生活の中で無駄な時間も明らかになります。不眠の人ほど、睡眠を1時間単位で増やさなければならないと思い込んでいるようです。1日5分の睡眠を増やすだけでも1ヵ月では2.5時間分の睡眠時間の増加です。それが半年、1年にもなれば相当な睡眠時間が確保できるはずです。
 また、多忙な人ほど空いた時間をぼんやりして過ごしてしまいがちです。「今日はいつもより早めだから、少しリラックスして過ごそう」とお茶を飲んだりテレビを見たりしてしまう。その時間があったらベッドに入って睡眠に充てればよいのです。

――最後に、「眠りの大切さ」についてメッセージをお願いします。

 人には個体差がありますし、職業や置かれた環境もそれぞれ異なります。ですから、「とにかく朝早く起きなければ……」と焦る必要はありません。無理に早起きしようとせずとも、日々の睡眠の質を高めれば、自然に起きられるようになります。
 ぜひ、スリープ・マネジメント(自分の睡眠を客観的に知ること)を通して日々の暮らしや働き方を見つめ直してほしいと思います。寝不足のままでは仕事のパフォーマンスは低下しますし、人間関係も悪化してしまいます。
 たとえば睡眠不足の人は、手首や頭皮をボリボリとかいていることがあります。脳の覚醒を強めようとヒスタミンが分泌され、体がかゆくなるためです。毎日のように体をかいていては、「不潔な人」ではないかとの印象をもたれてしまいます。
 また十分な睡眠が確保できていないと、外敵から自分を守ろうとする動物本来の防衛本能が必要以上に刺激されて、他人のささいな言動をキャッチし、イライラしたり不満を覚えたりするのです。
 よい眠りがよい人生をつくることを理解し、日々の健康管理に努めてほしいと思います。

<月刊誌『第三文明』2014年8月号より転載>

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すがわら・ようへい●1978年、青森県生まれ。国際医療福祉大学卒業後、作業療法士免許を取得。民間病院精神科勤務後、2005年から国立病院機構にて、脳のリハビリテーションに従事。脳の回復を促す睡眠に着目し研究。12年にユークロニア株式会社を設立し、代表取締役に就任。現在は、ベスリクリニック(東京都千代田区)で睡眠予防外来を担当する傍ら、企業向けの睡眠セミナーを開くなど、睡眠改善による病気予防と啓発に尽力している。著書の『あなたの人生を変える睡眠の法則』(自由国民社)は11万部を超えるベストセラーになった。