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「体内時計」を生かして 体のリズムに合った〝朝活〟を

山口大学時間学研究所教授
明石 真

 朝早く起き、勉強や仕事、運動などをすることで、自身の成長を図ろうとする“朝活”がブームになって久しい。しかしこの朝活も、「体内時計」の存在を無視して行えば、かえって体に負担がかかることがある。そもそも体内時計とは何なのか。朝活を効率よく行うためにはどうすればいいのか。

環境に適応するために備わった体内時計

「体内時計」は、植物、微生物から虫、哺乳動物など、地球上ほぼすべての生物に先天的に備わっています。太陽周期に従って約24時間周期で時間を刻み、生物の体内リズムの司令塔となっている大変貴重な存在です。
 地球上の生き物は、何十億年をかけて進化し、環境に適応できるものだけが生き残ってきました。
 地球で生きる生命体にとって、欠かせないのが「太陽」です。日の出、日の入りのリズムに合わせて生きていけるように進化の過程ででき上がったのが、体内時計と考えてもよいでしょう。
 実際、人間の体温や血圧は、体内時計によって24時間周期のリズムのなかで変動しています。日が昇ると体温、血圧ともに高くなるリズムが備わっているため、日中、活発に活動することができるのです。
 そして日が暮れると、体温、血圧が低下していくため、おのずと休む準備ができます。夜になると自然と眠くなるのはこのためです。
 さらに、就寝中の深夜は体温、血圧とも最も低下するため、細胞の活動レベルも下がります。
 しかもこの間、細胞はただ休んでいるだけではなく、再び夜が明けた後に動くためのエネルギーを蓄えているという、素晴らしいシステムが構築されています。
 つまり、人間の体は体内時計によって、太陽のサイクルの下で最も効率よく動くことができるように設定されてきたのです。

体内時計が夜型化

 ところがこの100年ほどの間に、私たちの生活環境は大きく変化し、24時間眠らない社会が出現しました。
 とくにこの十数年ほどの間に普及したインターネットの影響は絶大で、夜中までパソコンでインターネットを楽しんだり、ベッドの中までスマートフォンを持ち込むなど、本来であれば暗がりのなかで休息を取るべき態勢に入る時間になっても、光にさらされ続ける生活が急速に広まっています。
 もともと体内時計は、朝の光によって朝方向に、夜に浴びる光で夜方向に少しずつ修正されていきます。この性質のおかげで、体内時計は自然環境のもたらす条件とズレないように調節されてきたのです。
 一方、現代の光環境には、極端にメリハリがありません。私たちが朝から晩まで多くの時間を過ごす室内の照度は数百ルクスですが、日中の屋外の照度(晴天時)は数十倍の1万ルクスを示し、夜の屋外の照度は数ルクス程度と、室内照明に対して100分の1程度です。体内時計にとって、現在の朝の光は弱すぎ、夜の光は強すぎるため、自然と体内時計の夜型化が進むことになります。
 こうした要因から体内時計が夜型になっている人が、通勤や通学などの生活習慣に従って朝型の行動をとると、体内時計上まだ活動時間ではない時間帯に生活がスタートし、体内で混乱が起きます。
 しかも、体内時計は生活リズムのように、自分の意志でコロコロ変えることはできません。時計という名のとおり、恒常性を持っているため、生活リズムのほうにすり寄るには時間がかかるのです。
その結果、体内時計と生活リズムがズレたまま生活を続けることになります。

現代病と「隠れ時差ボケ」

 〝朝、食欲がわかない〟〝日中、ボーッとしてなかなか頭が働かない〟〝それほど夜更かししたわけでもないのに、朝起きるのがつらい〟……。
 これらは、体内時計と生活リズムのタイミングが合わないことから起こっている不調の可能性があります。時差のある海外に出かけているわけでもないのに、両者のリズムがズレてしまうと、まるで時差ボケのような状態に陥ってしまうのです。
 私はこれを「隠れ時差ボケ」と呼んでいますが、「隠れ時差ボケ」の慢性化は想像以上に危険です。
 考えてみれば、血圧や体温が上がり切らず、活動準備のできていない体を無理やり動かし、消化管に食べ物を流し込み、仕事や勉強も半ば眠っている脳で行う……というのは、大変無理のある行為です。
 だるくて仕方ない状態を、仮に精神力で乗り越えているにしても、体にかかる負担は大きく、やがて多くの疾患の原因となることが、これまでの調査でも示唆されています。
 たとえば、現在、予備軍を入れて罹患者数が1620万人あまりといわれている糖尿病。通常通り体内時計が働いていれば、活動時間である日中は摂食によってエネルギーを効率よく産生・消費し、夜は余ったエネルギーを蓄えて翌日に備える、というサイクルが成立します。
 しかし、体内時計と摂食リズムが一致しなくなると、エネルギーを使うべき時間(日中)に十分な摂取ができないため活動量は低下し、エネルギーを蓄えるべき時間(夜)に食事を取れば、消費より蓄積されやすく、肥満の原因となります。それがやがてインスリンの機能低下を招き、糖尿病発症へと至るのです。
 この悪循環は、動物の実験でも明らかになっています。
「隠れ時差ボケ」が引き金の一端を担う疾患は、糖尿病だけではありません。不眠や気分障害、生理不順、さらにはがんや循環器疾患のような命に関わる病気も、体内時計と生活リズムの不調和が一因となることも判明しています。
 体内時計を生活リズムに合わせていくことは、今後の予防医学の重要なテーマになるでしょう。
 これだけお話しすると、現代の生活ではまるで邪魔者の体内時計ですが、本来の機能を生かして医療の貢献への可能性を示しているケースもあるので、ご紹介します。
 これは時間医療と呼ばれるもので、体内リズムの特性を生かし、細胞の増殖が最も低下している時間帯に抗がん剤を入れて副作用を最小にし、薬の効果を最大限発揮させるようにした試みです。
 まだ医療現場で積極的に採用されている段階ではありませんが、患者さんの反応は上々で、今後の展開が期待されます。

〝光〟を朝活に生かす

 さて、夜にこれだけ過剰な光にさらされる毎日のなかで、どうすれば体内時計を生活リズムと合うように修正し、気持ちのよい“朝活”を行えるようになるのでしょうか。その最大のポイントは、「光対策」です。
 朝を充実させたければ、

☆朝日を浴びること
☆夜は光を避けること

で、この2つを1セットとして考えてください。朝活をするためには、その前の晩の消灯からケアしていく必要があります。
 そして、いきなり就寝時間と起床時間を決めてしまうのではなく、自分自身のサイクルを観察し、必要があれば体内時計をリセットするところから始めましょう。
 その際、ウイークデーと休日で就寝時間や起床時間を大きく変えないことも大事です。
 体内時計のリセットは、以下のように行います。

①朝の光を浴びること
 太陽の光は、脳の中枢に働きかけて体内時計を朝型にリセットする効果があります。また、起床時に太陽の光を浴びると、睡眠ホルモンであるメラトニンが減少し、眠気が覚めて頭もスッキリします。
 朝起きたらカーテンを開けて、朝日をたっぷり浴びるようにしてください。
②昼の光も浴びる習慣を
 日中の光は、1~2分浴びるだけでも、交感神経を活性化して、アクティブにしてくれます。会社から出られない方は、窓際に行って光を浴びるだけでも、違います。
 ランチの席を窓側にするなど、工夫して光を取り込みましょう。
③夜はできるだけ「ブルーライト」を目に入れない
 ブルーライトとは、パソコンやスマートフォン、テレビなどが発する光に含まれる青色領域の光のことです。目の奥の網膜まで届き、夜にこれを浴びると体内時計が夜型化してしまうため、用心が必要なのです。昼間の太陽にもブルーライトは含まれていますが、これは積極的に浴びるほうがよいです。
 夜、仕事でパソコンを使わなければならない人は、画面設定で液晶の照度を下げてください。また、ブルーライトをカットするフィルムがたくさん販売されているので、それをパソコンやスマートフォンに貼るのもお勧めです。
 家の照明もできるだけ落として、オレンジ系の色合いにしましょう。間接照明があるお宅は、積極的に使ってください。
 最近は、住宅用の照明でLEDの導入が進んでいます。そのまま使用するとブルーライトが強く、体内時計の夜型が加速してしまうので、調光器などでオレンジ系の色に変えるとよいでしょう。

食事のリズムも朝型に

 また、体内時計を朝型にリセットする上で、光への対応とともに大切なのが、食事の時刻です。
 マウスの実験でも、いつもと違う時間に食べたマウスは、消化器や肝臓の体内時計が著しくズレることが確認されています。

☆朝の食事は体内時計を朝型にする
☆深夜の食事は体内時計を夜型にする
☆とくに、寝る前3時間以内のドカ食いはやめる

 この3原則を押さえてください。
 食べる時刻の決め方ですが、翌朝起きる時間から逆算すると、体内時計に則った時間を割り出すことができます。
 たとえば、〝朝活〟のために朝6時に起きる人であれば、
就寝は夜11時
 →寝る2~3時間以内に大量に食べないほうがよい
  →夜8時~9時には食べ終わる

といった具合です。
 仕事などが忙しく、その時間までに夕食を取るのが難しい場合は、「分食」で対応しましょう。あらかじめ仕事の合間におにぎりなどをお腹に入れ、帰宅後、軽く食べるというやり方です。遅い時間(帰宅後)は、糖質と油っぽいものは控えめにするのがコツです。
 体内時計を、一気に変えることはできません。けれども、こうしたリセット法を継続していけば、必ず少しずつ修正することができます。
 〝朝活〟は、眠い目をこすりながら無理にやっても、かえって体に負担がかかります。充実した〝朝活〟をストレスなく、自然に行うためにも、健康のためにも、体内時計をしっかりリセットすることが重要です。

<月刊誌『第三文明』2014年8月号より転載>

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明石 真

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あかし・まこと●1973年、北海道生まれ。京都大学農学部卒業、京都大学大学院理学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、佐賀大学医学部循環器内科助教などを経て現職。専門は時間生物学、分子生物学。2010年、日本時間生物学会学術奨励賞受賞、11年、文部科学大臣表彰受賞。著書に『体内時計のふしぎ』(光文社新書)、『太陽を浴びると健康になる!』(飛鳥新社)。