【書評】「ネット政治」をめぐるリアリズム 解説:吉田 徹(北海道大学准教授)

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『ネット選挙とデジタル・デモクラシー』
西田亮介著
NHK出版
定価1365円  Amazonで購入
 
 
 
 

 先の参院選から「ネット選挙」が解禁となった。もっとも選挙戦で政党候補者、有権者ともにネットを有効活用できたとは言い難く、戦後3番目の低投票率となったことからもわかるように、期待されたほど効果はなかったというのが大方の結論だ。この本はこうした「ネットと政治」についての誤解を解きほぐし、そのポテンシャルを解き明かす決定的な書だ。
 著者は、ネットが政治に革新をもたらすのは間違いなく、ただ日本のネット選挙解禁が余りにも場当たり的かつご都合主義的で、それゆえネットが本来秘めるポテンシャルを引き出すことができなかったのだ、と評する。例えば日本の公職選挙法は、政治家と有権者に「~をしてはならない」という「べからず」の体系をとるため、ネットが得意とする双方向性や透明性を発揮することができないままになっている。情報がネットで簡単に拡散できる時代に未成年者だからといって、候補者支援のメールを転送できないのはナンセンスの極みだ。政治家がツイッターを使って一方通行で頓珍漢な発言を繰り返すのも、有権者からの真摯な問いかけがないからなのだ。
 海外を含む多くの事例を丁寧に検証しながら、数多の論者と異なって著者はネットで政治の全てが変革可能だ、などといった幻想は振りまかない。反対に、日本がどのような民主政治を実現させたいのか――願わくは、活き活きとしていてダイナミックで、透明性のあるもの――という目標がなければ、ネットはむしろ政党の健全な競争を歪める結果しかもたらさない、という。
 ネットに過大な期待をかけるのでも、嘲笑するのでもなく、それを利用して主体的に政治をどう変革できるのか――著者のこうした徹底頭尾した政治的リアリズムがもっと浸透していれば、政党やメディアのネットと政治についての議論や認識の水準はもっと高くなっていただろう。それを始めるのは今からでも遅くはない。
(北海道大学准教授 吉田 徹)

<月刊誌『第三文明』2014年1月号掲載>

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